あらすじ・概要
30代になってもコンビニバイトで働き、無気力に生きていた幸紀。彼がコンビニに来た男に刺された次の日、ワンルームに天使がやってきた。飛ぶ力と記憶を失っている天使は、回復するまで幸紀のワンルームに居座ることになる。生きる意味を見失っていた幸紀は、徐々に天使の存在に救われていく。
大人と子どもが互いに救い合う一瞬の奇跡
中学生程度の外見の天使とうだつの上がらない三十路ということで、倫理センサーが反応して無理かもな? と思っていました。しかし全編を通してプラトニックなので登場人物に強い悪意を持たずに読み終えられました。
主人公の幸紀はちょっと天使に下心を覚えることもあるのですが、それは一瞬で終わります。多少スキンシップをするくらいで最後までキスもエロもありません。睦言めいたこともほとんど言いません。
BLじゃなくてブロマンスでもいけるくらいの描写ですが、帯にBLって書いてあるからBLとして分類しておきます。
「だめな男がショタ(子ども)に救われる」というテーマはうっかりすると嫌らしく、センチメンタルすぎる内容になってしまうのですが、この作品は非常に読みやすかったです。
ネタバレ欄で後述しますが、シリアスな部分がきちんと感情ポルノっぽく描かれておらず、一定の「ありそう」なリアリティを持っていたところがその要因だと思います。
(ここからネタバレ)
主人公は元半グレ、少年は天使と思いきや自殺者の幽霊。
過去の事件で弟を犠牲にし、弟は自分の身代わりにヤクザになってしまいました。その事実を背負って無気力に過ごしていた幸紀……そりゃ無気力にもなるわ。
天使はいじめっ子だったクラスメイトの事故死を「他殺」として噂を流され、誹謗中傷に耐えかねて自殺してしまいます。
ふたりの設定、人格が非常に妙で、何気ない設定があとのページで生かされてきます。構成力が強い。
ただ単純なハッピーエンドにならないところも好きですね。彼らふたりは別れて終わるかもしれませんが、お互いがお互いを救った記憶は決してなくならないのでしょう。
永遠ではないけれど、一瞬の奇跡が一生を救うこともある。美しい結末でした。
話を作る上手さと、倫理の枠を超えないプラトニックラブによって、BL初心者の私にはいい漫画でした。