あらすじ・概要
ガス惑星の周囲を回る宇宙船で、大気を泳ぐ魚を獲って暮らしている人々、周回者(サークス)。お見合いで振られてばかりだったテラは、家出少女ダイオードと出会う。彼女は夫婦ペアでしか乗れない漁業船、礎柱船(ピラーボート)に、同性同士で乗ろうと持ち掛ける。試しに漁に出てみたふたりは相性ばっちり。だが、周囲は彼女らの挑戦を許さなかった。
女の子が活躍する話として最高
正直なところ、百合目当てではなくて「女の子がろくでもない世界にけんかを売る作品が読みたい!」という気持ちで手に取った作品でしたが、その動機でも十分楽しめる作品でした。
ガス惑星にやってきた<周回者>の祖先たちは、同性婚が合法なくらいには恋愛が自由でした。しかし主人公たちの時代では、すっかり家父長制、男尊女卑、異性愛至上主義がはびこっています。その理由は、「氏族の違うもの同士で結婚し、夫婦で漁獲を分け合う」という漁師たちのルールによります。
共同体を維持するためとりあえず設定されたのであろうルールが、世代交代をする間に柔軟さを失って固定化してしまい、余計な男尊女卑価値観が付け加えられる。何だか現代社会に似ていてリアルです。
そんな非常に閉鎖的な世界で、女同士でペアになったテラとダイオードが社会に抗う話です。
うちのブログの読者さんには絶対「女の子が活躍する作品が好き」っていう層いるでしょ? その層の人にはぜひ読んでほしいです。最高。
大人しい女性で、親戚の言うとおりにお見合いを繰り返していたテラがダイオードと出会い、自分に必要なのは結婚ではないと知ります。またダイオードも、露骨な性差別がある氏族から逃げ出し、テラから暖かく接してもらったことで少しずつ安らぎを得ていきます。
自分を縛っていた固定観念から抜け出して、新しい愛を得るふたりはかわいいです。
それからこまごました百合描写が非常に真面目なんですよね。どちらかというとダイオードから惚れているんですが、ダイオードは決して無理にテラに言い寄ったりはしないし(そこがもどかしくてかわいい)、スキンシップも控えめです。私はコンドームの使い道にちょっと感動しました。
同性愛をテーマにした作品って「同性だから」というのを盾にセクハラ展開したり過度なスキンシップさせたりする場合ありますよね。この作品はそういうのがありません。百合というより、「誰かを恋愛的に好きになる」作品として真面目。
エンタメとしても百合としてもフェミニズムものとしても優秀で、文句をつけるところはほぼないです。あるとすれば周回者社会の未来が知りたいというくらいですが、そこは続編に期待かな。