ブックワームのひとりごと

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杖職人が謎の素材の情報を調べて古代の真実を知る―筑紫一明『竜と祭礼―魔法杖職人の見地から―』

竜と祭礼 ―魔法杖職人の見地から― (GA文庫)

 

あらすじ・概要

師匠を亡くした杖職人イクスの前に、杖を修理してほしいという少女ユーイが現れる。師匠の遺言によりそれを引き受けたイクスだったが、その杖に使われていたのはとんでもない素材だった。杖を修理するために、ユーイとイクスは素材の手がかりを求め、あちこち調べ回ることになった。

 

 

「わかり合えない」ことを絶望として書かない作品

粗削りな部分もあるし、Amazonの低評価レビューも一理あると思ってしまうけれど、個人的には好きなファンタジーでした。

 

世界観としては魔法があって、冒険者がいて……というありがちなものなのですが、「その世界において魔法とは何か?」「なぜ社会は冒険者を必要としているのか?」という設定がしっかり用意されているところが好ましいです。

設定が世界観に深みを与え、しかもそれが押しつけがましくないので心地よかったです。

 

人物描写はあっさり目でキャラクターの心の内を知るシーンも少ないのですが、キャラクター同士を簡単に理解させず、「わからないことはわからない」ままで描写するのは好きでした。実際のところ人間関係ってそんなものですよね。

わかり合えなくても傷つけ合わずにいることはできるし、わかり合えないことすなわち絶望ではない、というヒロインの結論は、「共感至上主義」に疲れている私にとってはほっとするものでした。ビターな結末ではあるけれど、同時に優しさも感じる描写でした。

 

一方で、謎解き要素に強引さがあったり、描写が足りないなと思うところがあったり、物足りない部分もありました。そこでつまずいてしまう人もいるでしょう。

ただ、「ファンタジー作品の英雄ではない一般人の話が読みたい」というタイプの人なら試しに読んでみる価値がある作品だと思います。

すごく地味でドラマチックでもないけれど、筋の通った作品ではありました。こういう作品もまた、ライトノベルというジャンルの中にあってほしいです。