あらすじ・概要
テレビ局で働く志穂は、多忙ゆえに恋人にふられ、取材に向かっていた。その場所は、刑務所の中の美容室だった。美容室で髪を切ってもらったことで、志穂の心境に変化が訪れる。塀の中の美容室にやってきた女性たちと、服役中の美容師、それを見守る刑務官の交流を描いた連作短編。
だめな人たちに優しい小説
そういえばコミカライズされていた作品だったなあ、と何気なく読み始めたんですがすごくよかったです。
ストーリーとしては女性たちが刑務所にある美容室を訪ね髪を切るだけの話なんですが、それをしようと思い至るきっかけ、刑務所にたどり着くまで、そして実際に髪を切るシーンに女性たちの人生が詰め込まれています。
登場する女性たちは善人というわけではなく、弱いところやだめなところも結構あります。しかしそういう欠点を頭ごなしに否定せず書いた上で、次の人生へ一歩踏み出すラストに繋げていきます。
ちょっと心理描写があからさますぎるところはありますが、根底にある人間観がとても優しく、癒される作品でした。
個人的に好きなのは刑務所の美容室に通い詰めるおばあさんの話です。若いころのようには元気に活動できなくて、心配ゆえでもあるけれど子どもにあれこれ説教されて、少し自信がなくなっていきます。
でも刑務所の美容室に通ったことをきっかけに、「もっと頑固に生きていいのだ」と気付きます。
息子も情けないけれど悪いやつではないことが示されて、人生を感じますね。
あと最後まで読むとこの表紙が素晴らしいことがわかります。漫画絵の表紙でトップクラスに入るよさかもしれません。読む前は何この構図!? って思ってたのに。こういう内容をしっかり踏まえた表紙って最高ですよね。
優しいけれど、一定のリアリティがあって、厳しい現実もある。その塩梅が素晴らしいです。すごく面白かったので売れてほしいです。