あらすじ・概要
修道院で杖を作るため、エスト―シャにやってきたイクス。そこは大聖堂のある信仰の街だった。亡霊伝説のあるその街で職人仲間と杖を作っているうちに、イクスは街の秘密を知ってしまう。一方マレー教の権力争いに巻き込まれたユーイは、聖職者たちの会議に連れてこられていた。
浸食していく宗教と文化の暴力性
すげー……。この本を読んでよかったです。
正直ツッコミどころはある小説だけれど、宗教や文化の「暴力性」というテーマを選び、しかもオチまできちんと書き切るところがすごいです。
本地垂迹説とか、「日本文化は寛容だ」という流れにされることも多いんですけれど、実際には文化の浸食でもあるんですよね。そのことをはっきり書き切ったところは気に入りました。
ふたりの主人公、イクスとユーイがそれぞれの道を行くラストシーンも美しかったです。お互い半端者で真面目だからこそたどり着ける結末でした。
究極の杖とは何か気づいてしまったからこそのイクスの絶望、そんなイクスを「利用」しようとしているユーイ、苦い描写ではありますが、ふたりのこれからの人生を垣間見るような結末でした。
まだ続けられそうな話ではありますが、イクスとユーイの未来を示唆するところで終わるのもそれはそれで美しい気がします。三部作としてキリがいいし。
イクスが初めて同じ視点で語れる友人を得て、ちょっと嬉しそうなのもよかったです。あまり感情を表に出さないタイプのイクスが喜んでいるのはかわいい。これからどうなるかわかりませんが、せめて友情は続くといいですね。
ベストセラー作家になってくれることを願っています。次回作楽しみにしてます。