ブックワームのひとりごと

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妹の死を乗り越え成長していく家族と、淡い恋の終わり―宮部みゆき『小暮写眞館Ⅳ 鉄路の春』

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小暮写眞館IV: 鉄路の春 (新潮文庫nex)

 

あらすじ・概要

花菱英一の父が家出した。その家出をきっかけに、英一は死んだ妹にまつわる父母と父方の親戚の確執を知ることになる。また、英一はオーバードーズや自殺未遂を起こした垣本順子の過去も知る。それぞれの思いに決着がつく中、英一もまた若者として成長していく。

 

人生の決着がついていく最終巻

この巻は謎解き要素もほとんどなく、代わりにそれぞれの人生の決着がついていく回でした。

妹、風子はどうして死んだのか、そして花菱家の父母はどうして祖父母と縁を切ることになったのか。それが明かされ、家族全員が風子の死への葛藤をあらわにする中で、家族として成長していく姿が印象的でした。

両親も、ピカも、英一自身も風子の死は乗り越えなければいけない壁であり、寄り添わなくてはいけない過去であった。それを感じます。

 

そしてもはや作品のメインヒロインとなった、垣本順子の過去が明かされたのも印象的でした。

ひねくれもので当たりが強いが、オーバードーズや自殺未遂をしてしまう垣本。親を殺してしまいたいほど憎んでしまい、その自分自身の中の殺意に恐怖する彼女の内面を思うと痛ましく感じます。

救われてハッピーエンドというわけではなく、寂しさと切なさが残る終わり方でしたが、安易な救いよりもリアリティを感じてよかったです。

垣本と英一は再会するのかもしれないし、しないかもしれない。けれど彼らふたりが出会ったことは、お互いの人生で大きな意味を持つのだと思います。これはこれでロマンチックでした。淡い恋の終わりでしたね。

 

わかりやすいハッピーエンドではありませんでしたが、気持ちよく物語とお別れできた。印象的な最終巻でした。面白かった!