あらすじ・概要
政治学者・岡田憲治は他人からの強い推薦によってPTA会長になるが、そこは非効率、非論理的な活動に満ち溢れていた。会長としてPTAのスリム化を目指すが、そんな著者に反発する人も多く……。保護者による「自治」の中で、人間同士の政治を考える実録エッセイ。
正論だけでは回らない実際の日常の政治
政治学者である著者がPTA改革に挑戦する話ですが、単純な「賢い俺と無知蒙昧な人々」という構図ではなく、ややこしい人と人が共存する難しさが描かれています。
著者の提案に対して「やったことがない」「今までしてきたことを簡単に変えていいのか」と反発する人々。その姿は愚かに見えますが、読み進めるうちに単純なものではないことがわかってきます。
利害関係が変わってしまうことへの不安、PTAに気軽に参加できない人たちの後ろめたさ、つらい日々のガス抜きとしてPTA活動をしている人たちの存在。「合理的な意見に反対する」といっても、その理由はさまざまです。
本の後半で、著者は正しいこと、合理的なことだけ主張しても人を変えることはできないと気づきます。
わかり合えない人ともっとうまく付き合えたのではないか、という著者の後悔は、心に響くものがありました。
PTAとは自治のための団体であり、ひとつの政治の舞台でもあります。大学で教えているような政治学者が、周囲に振り回され、「大学で教えるような政治学」は実際のところ現実の「人と人の間での政治」では何の役にも立たない、と気づいてしまいます。皮肉な話かもしれませんが、当たり前だと思っていた価値観が崩れる痛快さもありました。
「周囲が変わっていくことへの漠然とした不安」はPTAだけではなく、さまざまな政治問題につながるものでもあるでしょう。その不安をどう解消していくかを無視して、分断を乗り越えることはできないのだろうと思いました。