ブックワームのひとりごと

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『ハンチバック』市川沙央 文春e-BOOKS 感想

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ハンチバック (文春e-book)

 

あらすじ・概要

遺伝子性の難病を持つ主人公の女性は、背骨が歪み、自由に歩くことができない。お風呂にも介助が必要だ。大量に本を読み、40代になっても大学生として勉強をしレポートとして提出する。こたつライターをして小金を稼ぐ。そんな中、いくつもあるインターネット上のSNSアカウントに「中絶したい」と書いてしまう。

 

主人公の性格の悪さに嫌な気持ちになる

面白かったですが、嫌な気持ちになる作品でもありました。

 

主人公は穏やかな障害者として振る舞っているようですが、内面は悪い意味で批評的であり、偏見にまみれています。

障害があろうとなかろうと、こんな人間とは付き合いたくはないです。

一方で、自由に部屋を出られない、動くのも一苦労、紙の本も体を削るように読んでいる主人公にとっては、他人を観察し評価すること以外にやることがないのでしょう。

健常者のように気分転換に買い物に行ったり、散歩したり、愚痴で盛り上がったりできない。偏見だらけの人間に、少しだけ宿る悲しさです。

どうあがいても普通になれない、人間の悲哀と、エンタメとして消費できない人間の生々しい醜さを感じました。

 

ただ、面白かったですが、これは「作者の当事者性ありき」の作品なので、今後どういう作品を書くのか気になりますね。

実際のところ、この小説は主人公以外のキャラクターが舞台装置的で、「主人公の知らないところで、知らない人生を送っている」という実感が薄いです。主人公は心が狭くて偏見があるので、それでもおかしくないわけですが。

今後著者が、自分と価値観が全く違うキャラクターを描けるのか、そこが作家としての正念場ではないでしょうか。