ブックワームのひとりごと

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『この本を盗む者は』深緑野分 角川文庫 感想 少女が本と家族の呪いから脱出する幻想文学

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この本を盗む者は (角川文庫)

 

あらすじ・概要

妄執的な読書家の一族に生まれた深冬は、本が大嫌い。一族が所有する図書館から本が盗まれたとき、「ブック・カース(本の呪い)」が発動した。深冬はいやいやながらもフィクションに飲み込まれた町で本泥棒を探すこととなる。

 

本を偏執的に愛する家族と訣別する物語

ファンタジーというより幻想文学と呼びたくなる、美しさと荒唐無稽さが同居する物語でした。

そして、書物を愛する人間が多数出てきながら、本が好きなことが必ずしも肯定的に描かれないのが面白かったです。現に主人公にとっては本は家族との葛藤の象徴であり、呪いでした。

他のキャラクターもまた本が好きなあまり倫理を逸脱し、他人といさかいます。物語は美しいけれど人を呪う、という世界観がよかったです。

 

本を妄執的に愛する一家に生まれた主人公は、本を好きであること、本に執着することを強制され、本が嫌いになってしまいます。

主人公は町をフィクションの世界のように変えるブック・カースの中で家族やこの町の人間に対して価値観を改めることになります。

親世代祖父母世代の執着を背負うことを拒否し、ひとりの自由意思を持つ人間として成長していく主人公はかっこよかったです。

テーマ的にもっと親世代祖父母世代がしっかり否定されてもよかったなと思いますが、物語の落としどころはこれくらいなのかもしれません。

 

祖父母世代の執着を、自由と開かれる情報で破壊するという行為にはすっきりしましたね。

 

 

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