ブックワームのひとりごと

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現実を侵食する全体主義 ジョージ・オーウェル『一九八四年』感想

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 訳者あとがきによると、この本は「読んだふりをしてしまう本」として有名だそうな。聖書みたいなものでしょうか……。

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

 

 あらすじ

ビック・ブラザーが率いる党が支配するオセアニアで、過去資料の改竄を仕事とするウィンストン。彼は、奔放な女性ジュリアと出会ったことをきっかけに、反体制組織に近づきます。「党」の目的はいったいなんなのか……。

 

圧倒される歴史観

SFでありながら文学作品としても評価されるこの作品。その理由の一つが歴史への深い洞察です。

フィクションなので誇張はされていますが、全体主義下の民衆の心理や、人の心をコントロールしようとする党の恐ろしさは、リアリティをもって感じられます。

私はドイツ文学専攻で、その流れでナチス・ドイツの資料を何冊か読み込んだことがあるので、「ああこれ本で見たやつだ」と思うところが多かったです。

SFでありながら、難解な科学知識はそれほど必要ないので、文系の人にはとっつきやすいかもしれません。どちらかというと歴史や社会学の知識のほうが多いです。

 

恐怖の「治療」シーン

後半の「治療」シーンはかなり恐怖を感じました。どんどん自己というものが失われていく感覚です。思わずウィンストンに感情移入してしまいました。

二重思考(ダブルシンク)というのはそれそのものが矛盾しているんですが、人間の頭の中はそういう矛盾を受け入れる余地があるところが恐ろしいです。こんな考えが広がったら科学者が泣くと思います。

一見まじめに見える政治家が不祥事を起こすのも、不倫した芸能人が堂々と社会について語るのも、一種の二重思考なのかもしれません。

やっぱり人間に対する洞察がすごいんですよねえ……。

 

まとめ

読むのに時間はかかりましたが、歴史と社会をテーマにしているので、ほかのSFよりとっつきやすかったです。

こんどは動物農場も読んでみたいですね。

動物農場 (角川文庫)

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パリ・ロンドン放浪記 (岩波文庫)

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