ブックワームのひとりごと

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自らの病を知らなければ前に進めない 松尾スズキ『クワイエットルームにようこそ』感想

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クワイエットルームにようこそ (文春文庫)

映画は見ていたけれど、原作は読んでいなかったので手に取ってみました。

改めて読むとやっぱりやばい話だった。

 

あらすじ

オーバードーズで精神病院の隔離病棟に運ばれた「私」。多種多様な問題を抱える女性たちとかかわりながら、なんとか早く脱出しようと試みます。果たして「私」は正気なのか……。

 

映画とほぼ同じだが細部は違う

映画も松尾スズキが監督しているだけあって、小説もほぼ同じ展開です。テーマや雰囲気もほぼ同じです。

ただ、ゲロのうがいのシーンはなかったですね。あれは読んでて気持ち悪くなりましたよ……。作者がそのつもりで書いているからいいんですけど。

映画と比べると、地の文の軽妙な語り口のおかげでギャグっぽさが増していました。この軽くてふわふわした文体で、芥川賞にノミネートされているというのだから驚きですよね。

精神病棟の話ということで重く感じるかもしれませんが、雰囲気自体はポップでギャグなので、ライトノベル好きな人にもとっつきやすいのではないでしょうか。

 

「自分はおかしい」と知ってからがスタート

作者が意図しているかどうかはわからないのですが、この作品は「病識」の話ですね。

病識とは、精神疾患の人が「自分は病気だ」と気づくこと。この病識を持てないと治療は困難を極めます。自分が病気だという意識がないものだから、薬をさぼったり病院に行かなかったりします。

自分自身の内なるめんどくささを受け止めないと、前に進むこともできないというラストは、過酷でもあり爽やかでもありました。

多分これからも主人公は多くの苦労をして、ひょっとしたら閉鎖病棟に戻ってくるかもしれません。でも、「自分はおかしい」と気づくことからでしか前に進めないんですよね……。

 

まとめ

ストーリーはそのままでしたが、改めて読むと過激で優しい話だったなと思います。正気と狂気の間は簡単に超えられてしまうという。

主人公にはこれから強く生きてほしいです。

 

クワイエットルームにようこそ (文春文庫)

クワイエットルームにようこそ (文春文庫)