書籍概要
多数の死者と行方不明者を出した尼崎連続変死事件。その中心となったのは、角田美代子というひとりの女だった。著者は尼崎で聞き取り調査をし、その地獄のような手口と、被害の全容を明らかにしようとする。
「特別」ではない人の犯罪
読んでいて感じたのは、想像もつかないような角田美代子被告の倫理観の欠如です。
角田美代子は察しのよさや機転はあるものの、能力的には特別な女性ではなかったと思います。よく暴力団を話に出していたらしいけど、言うほど密接な関係は持っていなかったようです。
そこにあったのは、お金のためなら殺人や脅し、暴力をいとわないモラルのなさ。家族を分断し、憎み合うように仕向け、そこからお金を吸い取っていきます。それは普通の人なら思いつきもしない手段だと思います。
ただ、著者が聞き取り調査をした相手が「こういうことは他にもある」と言うシーンがあって怖かったです。こんな世界がふたつもみっつもあったら困るよ……。
文庫版増補に描かれた「その後」
文庫版で追加された増補には、裁判中の容疑者たちの様子が描かれています。
美代子に人生をむちゃくちゃにされてしまい、消えない罪を負わされた彼ら。もちろん犯した罪は償わなければなりませんが、美代子にさえ出会わなければ……ともしものことを考えずにはおれません。
そんな中、瑠衣受刑者の子どもたちが、途中で美代子から逃亡した谷本豊さんにとっての救いになっているのにほっとしました。
生き残った人たちが自分の人生を取り戻して、日常に帰れるようになるのを望みます。
そして、この事件をきっかけに、日本における家庭内暴力への対処が変わるといいと思います。そうでなければ死んだ人たちが浮かばれません。
まとめ
めちゃくちゃ怖いので、気軽におすすめはできませんが、警察の不完全さや「家族」という建前の怖さがわかる秀逸な本です。
今後警察組織も、家庭内暴力に関心を持ってくれるといいですね。