あらすじ・概要
戦後の日本、岩手で行商人をやっていた著者は、そこで農民たちの困窮や、独特の文化、閉鎖的な社会での悩み事を知る。岩手の人々のために役立ちたいと思いながら、インテリ層として人々との距離感に悩む。当時もっとも乳児の死亡率が高かった、岩手の風景とは。
家父長制と同調圧力の中で生きる人々
著者は専門家ではなく元行商の記者ですが、アカデミックな世界に生きてはいないからこそ書ける本だと思いました。
画かれているのは、岩手の家族制度の息苦しさです。ムコやヨメなど、血の繋がらない家族への差別、同調圧力に人生を決められる社会。
第二次世界大戦すら、食べ物が支給され、都会のインテリたちが殴られるのを見られたことから「いい思い出」になってしまいます。それほどの貧しさや都会のインテリたちへの反感があるということなのでしょう。
著者は、岩手の人たちの力になりたいと記者として接触を試みますが、行商として訪れたときと違って困り事を告白してくれなくなります。ご馳走で歓待され、悪い部分を見せてくれなくなり、「よそ者の客」として扱われるのです。
岩手の人たちが世間に縛られ、がんじがらめになっていることを笑うことはたやすいです。
上から目線で教えてやろうというのではなく、人々のふところに飛び込んで、相手の視点を理解した上で意見を訴える必要があります。
正しいことを言えばいうというわけではない、複雑な人の心を感じました。
もちろんこれは戦後すぐの話で、今の岩手がそうであるわけではないでしょうが、その土地にはその土地の過去があると知った上で話すのが大事だと思います。