今日の更新は北野勇作『きつねのつき』です。
あらすじ・概要
人に化けた「何か」が徘徊する町。「私」と娘の春子は、天井と同化した異形の妻と暮らしている。娘と平和な生活をする一方で、身の回りでは不思議なことばかり起こる。ここではかつて悪夢のような事故があり、それが町をどうしようもなく変えてしまったのだ。
不思議なシーンと現実味が入り混じる
何とも説明が難しい作品です。ホラーともSFともファンタジーとも言いがたい。そのすべてなのかもしれません。
「狐」「お化け」と呼ばれる存在が跋扈し、主人公である「私」はそれらに頻繁に化かされています。非現実と現実の境目がなく、自由自在にスライドして読者を翻弄します。
その一方で、主人公は淡々と娘の子育てをこなし、日々の生活を大事にしています。児童館に通い、保育所に申し込む。現実味のあるその行動と、不思議なシーンが交じり合って何とも言えない浮遊感を醸し出しています。
解説にも言及されているように、おそらくモチーフは3.11の原発事故。「事故によってどうしようもなく変わってしまった町」をファンタジックな題材に変えて描き出しています。
作中では、登場人物がいつも何かから目を背けて生きています。しかし、読み進めていくと「何に目を背けているのか」すらわからないことに気付きます。気づくことすら拒んで生きている、その姿は原発事故から目を背けて生きている私たちそのものなのでしょうね。
何とも理解しがたい、不可解なストーリーだけれど文章自体は読みやすくさくさく読めます。
本の中で迷子になるような作品でしたが、おそらくそれこそが狙いなのでしょう。
『きつねのつき』まとめ
わけもわからず不安になる作品でしたが、面白かったです。不可解な物語が平気な人はぜひ。
どうしようもない浮遊感に打ちのめされましょう!