ブックワームのひとりごと

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『音楽朗読劇「黑世界~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~」日和の章』感想

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音楽朗読劇『黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』 日和の章 Blu-ray

 

あらすじ・概要

人間と吸血種が生きている世界で、永遠の命を得てしまった吸血種の少女、リリー。リリーは森の中を当てもなく旅しながら、人間や吸血種と出会い別れていく。外部から脚本家を招き、シェアワールドとして繭期ワールドを描く連作短編劇。

 

 

いい話だったねと思える意外性

 いい話だった。いや、TRUMPシリーズでいい話だったと思うの初めてなんですが? だいたい見終わった後嫌な気分になりますからね。(つまらないとは言ってない)

しかし、明らかに性格に問題があるキャラが多いTRUMPシリーズ本編とは違って、比較的常識的倫理的なキャラがかわいそうな目に遭うのはまた違った残酷さがあります。

本編が思考も倫理もやばい吸血種が地獄の業火に焼かれる話だとすると、黑世界日和の章は思い描いた未来を手に入れられない、その辺にいるごく普通の吸血種(or人間)の話でした。

 

以下、章ごとの感想です。

 

家族ごっこ

旅の途中、リリーはある家族に保護される。そこでリリーは子どもたちの世話をするのだが……。

成人女性が幼女を演じていますが声だけなら違和感がないのがすごいです。朗読劇なので見た目と演じる役が乖離していても受け入れられるのは面白いですね。

 

青い薔薇の教会

リリーは森の中で人間の神父を助け、お礼に教会に泊めてもらう。そこには薔薇の世話をする吸血種がいた。

この話すごくお気に入り。趣味が合います。

結果的に神父が「許す」ことでモスカータを苦しめているところが業が深かったです。モスカータが神父に罪を告白したのはもちろん自分自身の罪悪感もあったと思うんですが、それに加えて殺されて罪から解放されたかったところもあったのではないでしょうか。

でもたぶん償うって罪から解放されることではないんですよね。取り返しのつかない結果を背負って生きていく覚悟なんです。だからこの神父の行動は正しいと思います。

許されなくても許されるために行動し、許せなくても許すために行動する、という加害者と遺族の関係、理想ではないでしょうか。

 

静かな村の賑やかなふたり

リリーは森の奥で吸血種について謎の伝承がある村を見つける。

光速のせりふ回しで吸血鬼あるあるを展開するだけのコメディ回。罪がないのに笑えていい喜劇でした。

しかも筋らしい筋がなく、ただただ吸血種トークをしているのに面白いのが不思議。

よくあんな早口で話せますね。俳優ってすごい。

 

血と記憶

「家族ごっこ」の成長した子どもたちと再会するリリーの話。

ノク、別に悪いことをしていないのに無残に死んでしまってかわいそうでした。リリーよりラッカのことのほうが大事なのに、リリーがラッカの記憶を消すとやめてやってくれと止めるのがいい奴感にじみ出ていてつらいです。

悪いことをしていないキャラが死ぬのは心が痛いですね。

あと、ヴァンパイアハンターが唐突にラップを初めて驚きました。黑世界ディヴィジョン。

 

二本の鎖

リリーは森の中で、ふたりきりで暮らしている繭期のヴァンプに出会う。

日和の章唯一のマジヤバ回でした。理想的なメリーバッドエンドではないですか?

恋人ふたりの思想はおかしいけれど、何となくさわやかな感じもするのは、リリーが過度な介入を避け、ふたりを責めようとはしなかったからでしょうね。

お互いに呪いをかけ、閉じた世界で暮らしていくふたりは耽美で美しかったです。

ちなみに私は来楽零のファンで、このために黑世界日和の章を見に行きました。

 

百年の孤独

最終話にしてノクとラッカの話総まとめ。

不死の少女に手を握ってもらって死ぬの、理想の死に方じゃないですか? うらやましい。

ラッカは死んでしまったけれど、ラッカとリリーの家族ごっこの記憶はリリーが生きている限り続くのでしょうね。

しかしノクが「少女純潔」を歌いだしたのはちょっと唐突で笑いました。そういうキャラじゃなかったのに。いい声の俳優に歌わせたかったんでしょうね。

 

個人的に本編よりこういうノリの方が好きなんですが、本編のオチが最悪だからこそこのほっこり感が生きているような気もします。