ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

ミランダはなぜ最低の上司なのか~本当は怖い『プラダを着た悪魔』【ネタバレあり】

このブログには広告・アフィリエイトのリンクが含まれます。

プラダを着た悪魔 (字幕版)

 
地上波で『プラダを着た悪魔』をやっていたので、久しぶりに録画して見ていました。
やっぱいつ見てもミランダは最低だな!!と思っていたところ、Twitter上の感想ではミランダに好意的な感想が多くて驚きました。
今回はなぜミランダが最低なのかという話と、私なりの『プラダを着た悪魔』の解釈を書きます。
ラストシーンまでがっつりネタバレしているので、未視聴の方はご注意ください。 
 

ミランダ最低行動列伝

 

部下を育てる気のないパワハラ

まず第一のミランダの胸糞案件は、アシスタントを育てる気が一切ないことです!!
ミランダはアンディに常に無茶振りし続けるし、言う前に気を回すことを求めるし、あんたのクローン作ってそいつに仕事やらせろよ! って感じです。
しかも少しでも仕事が遅れると罵倒してくるので怖い。
部下を崖に蹴落としてよじ登ってきた人間だけを一人前として認めているんですよね。
よじ上ってきたアンディはいいんだけど、これまで何人の部下の人生を浪費してきたのか考えるとヤバい。
 
 

部下に子どもの世話をやらせる

まだ「仕事に厳しい」だけならいいんですよ。
部下に子どもの世話をやらせるな! 家事代行やシッターを雇え!!
公私を混同しまくりだし、そういう距離感のない人間だから休みの日のアンディに平気で電話をかけてくるんだろうな。
 

仕事を属人化しすぎている

作品の最後のほうで、ミランダは有能なカメラマンやスタッフに「自分がランウェイを去るときは一緒に辞める」と約束させていることがわかります。
さ、最低すぎる! そりゃ、ミランダはいいでしょうとも。でも、残される編集部はどうすればいいんですか? 人間は自分から辞める以外にも、病気やけがで仕事を続けられなくなるときもあります。不老不死の吸血鬼になるつもりなんですか?
ミランダと「契約」を結んでしまったスタッフたちの自由なキャリアはどうなるんですか? ミランダは神にでもなるつもりなんですか?
 

やつあたりをする

見本を届けるとき、ルールを守らず夫婦げんかを目撃してしまったアンディは、ミランダから『ハリー・ポッター』の未公開最新作を要求されます。
まあルールを守らなかったのはアンディのミスだけど、ややこしい感じにテーブルを飾るのもよくないだろ! 子どもか!? って感じのやつあたりに、『ハリー・ポッター』の未公開最新作をねだるのが最低すぎます。
アメリカの出版事情はよくわからないですけど、出版業界で新作のデータは機密じゃないですか? ハリー・ポッターならなおさら。漏洩させた人首が繋がってるのかな……アンディもここで辞めましょうよ。出版業の倫理をもう一度勉強してください。
 

視聴者はなぜミランダをかっこいいと思ってしまうのか

と、こういう話をつらつら書いていると、「いやミランダは、才能に溢れた素晴らしい編集者なんだ」と思われるかもしれません。
しかしその反論にはこう返したいです。「あなたの仕事場にミランダがいたらどうしますか?」と。
よほどの人でないかぎり、「辞めたい」と思うのではないでしょうか
じゃあ我々はなぜ、ミランダを「かっこいい」と思ってしまうのか。
それはやはり、この作品が「キラキラしたファッション業界」を舞台にしているからです。
もしミランダが土木業にいたら、IT業界にいたら、工場であんまんを作っていたら、かっこいいと思えますか?
『プラダを着た悪魔』は外見史上主義に関わる、怖い話なんですよ。
 
その証拠に、『プラダを着た悪魔』でミランダを称賛するのは、ファッション業界の人間だけです。
アンディの父親も恋人も友人も、ミランダのことをよく思っていません。最初はアンディもそのひとりだったはずです。しかしアンディは、仕事で成功を収め、ミランダに気に入られるにつれて、ミランダを擁護し始めるようになるのです。
せ、洗脳されている……!!
ミランダがなぜこの映画で「悪魔」に例えられるかというと、度を越したパワハラももちろんですが、人を魅了する力を持っているからでしょう。ミランダの周囲の人間はこう思うように呪いをかけられてしまいます。
「ファッションには人生を犠牲にする価値がある」
その呪いが自分だけではなく、周りの人間に及んだとき、崩壊が始まります。この呪いによって、アンディは恋人と別れてしまいます。
 
アンディは最後にミランダに繋がる携帯電話を噴水に投げ捨て、呪いから脱出します。
このシーンは今まで見た映画の中で一番のハッピーエンドだと思っています。
自分を支配する上司から逃げ出し、自ら呪いを解いて、アンディは自分の人生へと戻っていきました。
 

本当にクリエイティブな仕事のためには犠牲が必要ですか?

ちょっと話は変わりますが、アニメ制作の現場って過酷で有名ですよね。で、労働基準法に違反したという告発があったとき、「でもそれで、素晴らしい作品ができたじゃないか」と擁護する人が必ずと言っていいほど出てきます。
確かに出来上がった作品は素晴らしいかもしれません。でも、作品が素晴らしいからと言って、他人に理不尽な仕打ちをしたことが無罪になるかと言うと、そんなことはありません。
どうも、世の中の人は――私も含めてですが、ついつい「美しいものや、素晴らしいコンテンツを作るためには、犠牲が必要だ」と思ってしまいがちのようです。
でもクリエイティブな仕事に比べて、土木業やIT企業やあんまんを作る仕事が素晴らしくないわけではありません。芸術やエンタメに携わっていても、ちゃんと労働者としては普通の仕事と同じ土俵で競わなければいけないのだと思います。
 
 
 
というわけで、私の意見は。「『プラダを着た悪魔』は、クリエイティブな仕事、美しい仕事、華やかな仕事への風刺的な意味合いを持った、社畜脱出ストーリーだ」という主張です。
ファッション業界礼賛映画では決してないんですよ。むしろかなり闇を描いている。
 

この記事が面白かった人へのおすすめコンテンツ

最後におまけでこの記事の解像度が上がるかもしれない、おすすめコンテンツを紹介しておきますね。
大好きでときどき見返してしまうまとめ。「美しくて一芸があってダメな男に依存されたい」という欲求と『プラダを着た悪魔』は通じるところがあると思っています。
新卒はツラいよ!

新卒はツラいよ!

 
新卒で入った企業がブラック企業だった男性のコミックエッセイ。『プラダを着た悪魔』からキラキラ要素を引き算したらこれになるんじゃないかな。
プラダを着た悪魔 (字幕版)

プラダを着た悪魔 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 
プラダを着た悪魔 (吹替版)

プラダを着た悪魔 (吹替版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video