あらすじ・概要
ダンサーの道を諦めて翻訳家になった広世志摩は、かつてチェコスロバキアの学校でオリガ・モリソヴナという教師に出会った。強烈な個性を持ち、多くのダンサーを育てた彼女の謎を解くために、志摩はロシアを訪れる。親友カーチャとオリガの数奇な過去を追ううちに、ソ連時代のロシアの歴史に触れる。
事実とフィクションの境界があいまいになる小説
面白いというより興味深いという感じの作品でした。
著者の半自伝的エピソードに、旧ソ連を生き抜いた老女の人生が乗せられているのですが、この老女の話はフィクションです。しかしそのフィクション部分が大量の参考文献を通して形作られていて、読んでいて事実とフィクションの境界線がわからなくなります。
オリガ・モリソヴナという教師は実在していて、教え子だった著者が彼女の過去を想像して物語を書いたそうです。思い切ったことをするなあ……日本で現代だったらプライバシーの問題的に許されなさそうです。
カーチャと志摩があちこちで資料をひっくり返してオリガの足跡を探し、少しずつオリガの人生が明らかになっていく様は、さながらミステリで謎を解くようでした。意地でも調べてやるのだという女性のガッツが楽しいです。
ダンサーとしての能力、ラーゲリでの生活、ジーナという養子をもらった訳、などなど、オリガの輪郭がだんだん明らかになってきます。読んでいるとだんだんオリガという女性に親しみを覚えてきました。
しかし500ページ越えと長い上に、内容も重いので読むのに大変時間がかかりました。緊急事態宣言中で暇でなかったら挫折していたかもしれません。
読むときは時間に余裕があるときをおすすめします。