ブックワームのひとりごと

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クズとクズが精神的に殴り合う話―「ミュージカル『スリル・ミー』」(5月29日20:00公演配信版)

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ミュージカル『スリル・ミー』ライヴ録音盤CD・田代万里生×伊礼彼方

サムネ画像今回の公演じゃないんですがちょうどいいものがなかったので許してほしい。

 

あらすじ・概要

殺人犯である「私」は、仮釈放のための審議に出席する。「私」は「彼」についてそこで語り始めた。「彼」は弁護士を目指すエリートでありながら、ニーチェに傾倒し軽犯罪を繰り返していた。「彼」を慕う「私」は命令に逆らうことができず、ついに「お互いの要求を無条件で聞く」という契約書を交わす。

 

 

演劇というコンテンツの良さを濃縮したような作品

クズとクズが精神的に殴り合う話でした。おまけに性欲が混じってくる感じ。

キャラクターがクズだから彼らがひどい目に遭っても全然つらくならないんですが、唯一殺された子どもはかわいそうですね……。

一見ヘタレに見える「私」の行動が、オチを知ってからだとものすごく恐ろしいものに感じてくるという恐怖。でも、怖がっていること、世間体を気にすることも嘘ではなかったんだろうなと思います。価値観が、それを超えてしまっただけで。

 

私はどんでん返しのある作品ってえてして「もう一度見たい」と思わないものなんですが、これは展開を知っていても何度も見たくなる作品なのがよくわかります。

役者のちょっとしたしぐさの違いとか、声音の使い方で作品の解釈ががっつり変わるだろうなと。楽器はピアノ一台、舞台のつくりも階段があるだけですごくシンプルという無駄をそぎ落とした演出が解釈の自由さを持たせてくれます。

この作品を作った人は本当に演劇やミュージカルが好きなのでしょうね。演じることの良さが全部乗せにされているような作品です。

 

しかしこれは生の舞台でやらないと真価が発揮できない作品だろうなとも思います。耳が痛くなるくらい静まり返った劇場で悲痛な叫びが響き渡るのは美しいでしょうね。

 

一方で、ハマる人はハマるだろうなと思うんですが、「男同士の激重感情」にそこまで興味がない人間としては、オチが出るまであまり内容に入り込めなかったですね。キスシーンも「ふーん」としか思わないし。

オチを知ってから見直したらまた印象が変わると思うんですが。