ひとりの男を追いかけた、女優の千年転生物語『千年女優』
大女優藤原千代子のドキュメンタリーを作ることになった制作会社の男たち。千代子にインタビューを試みるが、彼女の話はあっちに行ったりこっちに行ったりまとまりがない。やがて現実と出演作の境界があいまいになり、千代子の半生は長い長い輪廻転生の物語になっていく。
見れば見るほど語ることが野暮な気がしてくる作品です。
それでもあえてどういう物語か説明するならば、結果が伴わなくても、悲恋であっても、千代子自身が今までの人生を肯定できるならそれでいいじゃないか、という話です。
この現在でも、出演した作品の中でも、千代子は惚れた男を追いかけ続け、何度も悲劇を味わいます。その繰り返しは痛ましいですが、強い思いを持てるのはうらやましくもあります。
この作品では物語と真実の境界線がどこまでもあいまいですが、それでいいのだと思えます。どれが真実で、どれが嘘かを分けることも千代子の自由なのだと思います。
帰ってきたヒトラーによる最悪の結末『帰ってきたヒトラー』
2014年にタイムスリップしてきたヒトラー。彼はテレビ局のディレクターに拾われ、ヒトラーのそっくり芸人として人気を博します。彼の言葉はジョークとして受け止められていましたが、徐々に状況は変わり始めます。
この映画の画期的なところは、ヒトラーの扮装をした役者が一般の人の間を歩き、彼らの意見を聞いて、それを映画の一場面として編集したところです。そのせいでモザイクをかけられている人も多く出てきます。
もう全く、どこまで本当でどこまで嘘なのかわからなくて恐ろしいですね。映画なので、もちろん編集にも作った側の政治的な意図は入るでしょうが、道行く人がヒトラーと写真撮ったり彼に対して「ドイツに命を懸ける」と言い出すのは心臓に悪いです。
こういう撮り方にも、話の流れにもメタフィクション的な部分が多くて、見ていると必ず自分の見ているものを疑いたくなってきます。私が日常的に見ているものは本当に存在するものなのか……?
結末も本当に最悪過ぎる。トラウマ映画のひとつです。
舞台の上で戦う少女たちと観客の関係『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』
聖翔音楽学園に通って役者を目指す愛城華恋。クラスメイトと共に聖翔祭の準備を進める彼女は、謎のオーディションに巻き込まれる。そこでは、「トップスタァ」の座をめぐって舞台少女たちが戦っていた。
不思議な舞台で暴れまわり戦う少女たち、そしてそれを眺める謎のキリン……。という構図。暗喩が多く使われ、一見しただけではよくわからないアニメです。
しかし「これってひょっとして俳優と観客の関係を示しているのでは?」と気付いてからは見方が変わってきます。エゴとエゴのぶつかり合いが心地いい作品です。
いい子だけがおとぎ話の主人公ではない『シュガー・ラッシュ』
「フィックス・イット・フェリックス」というゲームの悪役のラルフ。彼は他のゲームの登場人物とけんかをしてしまい、メダルを求めて別のゲームへと渡る。どたばたの末にたどり着いたのがお菓子の国のレースゲーム「シュガー・ラッシュ」。ラルフはそこで生意気な少女ヴァネロペと出会う。
このヴァネロペという子、なかなかディズニー主人公らしからぬキャラクターです。初対面の大人であるラルフにずけずけとものを言うし、すぐに調子に乗るし、他のキャラにも挑発的なので不具合を抱えていなくてもあんまり友達ができないタイプだと思います。
でもこういう「はみ出し者」のキャラでないと、ラルフと友達になることはなかったんじゃないかなと思います。ヴァネロペがあまり性格がよろしくない少女だったからこそ、境遇に共感して協力したのではないでしょうか。
世の中の子どもは「いい子」だけではないし、いい子だっていつでもいい振る舞いをできるとは限らないです。コミュニケーション能力に難がありそうな二人が人間的に成長して、夢を叶える姿にほっとしたんですよね。
オタクが俺TUEEEする話をすごい予算で作った『レディ・プレイヤー1』
仮想現実の中のゲーム「オアシス」。そこでは逝去した制作者がしかけたイースターエッグ探しが行われていた。三つの鍵を見つけたプレイヤーは、製作者の膨大な遺産とオアシスを管理する権利が与えられるという。プレイヤーの一人であるパーシヴァルは、強力なプレイヤーアルテミスとともに鍵探しに身を投じる。
はっきり言ってしまうとこれはチート物語の系譜ですよね。現実ではさえないオタクが、ゲームの中で無双をして、彼女を手に入れて、気のいい友達とわいわいやる。
あらすじだけだと嫌らしいんですが、ストーリーのテンポの良さ、映像技術の壮大さ、実在のサブカルコンテンツのパロディなどで気にならなくなっているところがすごいですね。イラっとくるチートものというやつは、それ以外に面白いところがないからつまらないのだと気づきました。
そしてどこか人を食ったような終わり方には笑ってしまいました。ああいう終わり方だからこそ憎めないところがあります。