ブックワームのひとりごと

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抑圧された中華系女性がマルチバースからすべてを得、娘を救う―『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

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ポスター/スチール写真/チラシ アクリルフォトスタンド入り A4 パターン8 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 光沢プリント

 

あらすじ・概要

中華系移民のエヴリンは、夫ウェイモンドとともに税金の申請をしようとしていた。その途中で、ウェイモンドが別人のように変貌し、彼女にマルチバースを救ってほしいと頼む。彼はアルファ・レイモンド、他の世界からやってきた人間だった。エヴリンは事件に巻き込まれながらもマルチバースから力を借り、覚醒していく。

 

トンチキコメディをやりながら抑圧される女性の成長、母と娘の愛憎入り混じる関係、自分で選択し生きることの大切さを描いた作品でした。

 

主人公のエヴリンは、若くもなく美人でもなく、いつも何かに怒っていて、同性愛者である娘のことも受け入れられていません。

しかし世界を救う戦いに巻き込まれ、黒幕ジョブ・トゥパキから娘ジョイを助けたいと思う中で、たくさんの自分のあったかもしれない未来を見ます。

俳優である自分、歌手である自分、シェフである自分、手の指がソーセージである自分、などなど。

戦いを重ねる中でいくつもの世界線が混乱していき、エヴリンの「設定」も、ものごとの因果も、狂っていきます。

自分に自信のないエヴリンが、自分ではない自分を見、そこでもたくさんの後悔と挫折があったことに気づくことで、自分と娘を受け入れたところには涙がこぼれました。

 

お互いに自分の欠点を投影し合うような、エヴリンとジョイの関係には、苦いものを覚える女性は多いのではないでしょうか。

エヴリンが最後に父親からの抑圧から脱却しようとしたのと同じように、ジョイもまたエヴリンからの抑圧から卒業し、新しい時代を生きる女性になってほしい。そう思いました

家族を大事にしようというオチながら、テンプレ的に感じないのは、エヴリンが家族を作らない世界でも、彼女があがいて生きていたからでしょう。他世界がどうあれ、「今」のエヴリンが選べる最良の道を選んだラストに、心打たれました。