ブックワームのひとりごと

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清少納言から中宮定子への熱烈な主従愛―冲方丁『はなとゆめ』

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はなとゆめ (角川文庫)

 

あらすじ・概要

宮中に出仕することになった清少納言は、そこで中宮定子の聡明さ、優雅さに惹かれる。中宮定子や貴人たちとの交流に、頭のいい清少納言は機転を利かせて雅に答え、それを評価される。しかし次第に、藤原道長の権力が、中宮定子にまつわる人々を脅かし始める。

 

思い出が今を肯定してくれる

恋かと思うくらいに熱烈に中宮定子を愛する清少納言、しかし彼女にも夫がいるし定子は一条帝の正妻です。

もうここまで来ると男女CPを前提にした百合という気がしてきます。

実際、清少納言は「中宮の心を独占してみたい」という思考に近いところに至ります。異性愛の規範にどっぷりつかりながらも、定子という女性に焦がれあこがれ、うっとりと見惚れていた結果の思考です。

 

平安時代なので女性の地位が低かったり、家父長制が強かったり、身分の差が激しかったりと、今の社会とは違う部分がたくさんあります。

それでも違和感なく読めたのは、心理描写が丁寧で、価値観が違うながらも清少納言に心を寄せることができたからでしょう。

 

作品後半に差しかかると、清少納言は身の回りのことを描いた「枕」を書き始めます。それは宮中でも評判になりました。

自分のこと、中宮定子のことを書くにつれて、清少納言はその行為に救いを見出すようになります。

同時に藤原道長と中宮定子の勢力が水面下で争い、中宮の権力がはぎとられていく中で、清少納言は「枕」を描き続けます。それが自分と定子との思い出を肯定し、ひいては今を肯定すると信じて。