あらすじ・概要
スピリチュアルな何かを信じられず、「現実」ばかりを見ている主人公は、「カルトをやらないか」という誘いに乗ってみる。表題作ほか、他者に馴染めない、どこか心ここにあらずな人々を描いた短編&エッセイ集。
全体的に「普通」に生きられない人々の物語でした。私自身も世の中に大して居心地の悪さを感じているタイプなので、共感しながら読みました。
表題作『信仰』は、現実に近い世界観だけれどもどこかおかしいです。鼻のホワイトニングが流行っていたり、50万円もするお皿のブランドが流行っていたり。主人公はそういう怪しげなものを一蹴しますが、心のどこかで「スピリチュアルなものにハマれない自分の方がおかしいのではないか」と思っています。そして信じられるものができるなら、とカルトに関わることになります。
終盤のとち狂った展開は半ばギャグのようですが、その状況でも現実を捨てられない主人公が哀れでした。
『最後の展覧会』はこの短編集の中では毛色が違う作品です。とある宇宙人と地球に取り残されたロボットの話です。童話SFのような雰囲気で、ダークな展開をしつつも少しほっとする作品でした。
挿入されるエッセイも面白く、興味深かったです。
特に「多様性という言葉を使うのが怖い」という意見が心に残りました。
著者は世の中に多様な人々が生きていることは否定していません。しかし自ら「クレイジー」と呼ばれることを許していたらメディアにその言葉を取り上げられ、「人と違う」ことを有象無象にキャラクターとして消費されてしまったことに罪悪感を感じます。
正直そこまで言葉に責任を持つ必要はないでしょうし、他人からの評価は独り歩きするものだと思います。
しかしそこに真面目に責任を感じてしまうところに、著者の魅力を感じます。