あらすじ・概要
学校の音楽教師をしながら生計を立てているジャズピアニストのジョーは、ある日有名ミュージシャンとの共演のチャンスを得る。喜んだのもつかの間、ジョーは穴に落ちて半死半生の状態になり、魂だけの姿になってあの世に行くことを要求される。ジョーは何とか行き返るために生まれる前の魂である22番を利用しようとする。
夢を叶えることをゴールとしない物語
夢を叶えることをテーマにした作品ですが、夢を叶えることをゴールとしない価値観を提示しする、新鮮な映画でした。
主人公のジョーはピアニストとして成功することを夢見ています。しかし、その一方で学校の音楽教師としてピアノを教えることや、喫茶店で演奏をすることをどこか軽蔑しています。
私は学校の音楽の先生にお世話になったし、喫茶店で演奏をするジャズミュージシャンも知っているのでこのくだりにはどうしようかと思いました。だってやりたくもないのにやっているとこっちもがっかりするじゃないですか。
しかし、作品の途中で夢を叶えたジョーは、子どもたちや一般の人たちに音楽を教えたことも、自分の人生の一部だと気づきます。
私は音楽に関しては一般人側の人間なので、ミュージシャンにこういう風に思ってもらえるのはほっとしますね。
生まれる前の魂としてジョーと出会う22番が、自分のネガティブさに対して別の見方を得ていくのもよかったです。
彼or彼女は生まれたくないと、反出生主義じみたことを話します。しかしそれは22番が思慮深く、自分の内面について深く考えてしまう性格だからということが語られます。
ジョーの身体を借りて生活するうちに、22番の思慮深さや哲学的思考を評価してくれる人が現れ、22番は「生きるのも悪くないのかもしれない」と思い始めます。
哲学的なことを考えていると「考えすぎだ」「根暗」のように評価されがちなので、そういう性質の人を肯定的に描くのが新しく感じました。
最後は劇的な展開もなくさらりと終わりますが、冴えない人生すらも肯定する、この作品らしい結末だと思いました。
少しビターで、とても優しい作品でした。