あらすじ・概要
近所に巨大な犬がいる。穏やかで、優しい大きな犬と主人公は仲良くなっていく。しかしある日、犬はどこかへ消えてしまって……。表題作ほか、ありふれた日常の中に起こる不思議や他人との関係を描いた短編集。
人の内面に踏み込む瞬間にはっとする
淡々とした話ではありますが、ときどきガツンと登場人物の内面に踏み込むシーンがあり、緩急がよかったです。
短編集の中で一番気に入っているのは、「クリスマス幸」という、クリスマスケーキを店頭で売るアルバイトをする女性の話です。
彼女は、子どものころからクリスマスをやらない母親のもとで育ってきました。
彼女は無意識に抑圧していた、クリスマスをやりたいという自分の欲求に気づき、母親に話します。母親に自分の考えを話すシーンには、一緒になってはらはらしました。
クリスマスを祝ってみたい、というネタから、話を広げ、親子の関係を見直す話になるのが面白かったです。
次に好きなのは「七福神再び」の話です。祖父が突然「自分は七福神のひとりである」と告白してくる話です。周囲はたわごとだと思っていましたが、再結成のために、本当に七福神が集まり始めます。
老いた家族を愛しながらと少しナメている雰囲気から、実はこういう人だったのか、と新しい発見をしていくのが面白かったです。
最後はしみじみ噛み締めるような終わり方で、読後感がよかったです。