あらすじ・概要
殺人事件の被害者の兄と、地下鉄サリン事件を起こした教祖の娘。彼らはお互いに何を感じ、何を語るのか。対話から見えてくる、現代日本の人権の問題、同調圧力やステレオタイプの押し付け。話すことによって問題を捉え直すことを試みる本。
重要な対話であると同時に問題作
人権侵害を巡る重要な対談であると同時に、問題作でもあると思いました。
対談者ふたりの言葉は重く、つらいものですが、人前でこうして対談ができるという点で精神力が強いんですよね。だから一般化できるものではありません。
一方で、加害者家族や被害者家族の話をするとき、当事者の意見を抜きにしてセンセーショナルな話題ばかりを取り上げてしまう社会にも責任があります。広告費という間接的なものであっても、メディアは視聴者から金銭を得ているわけで、一般市民もその責任とは無縁ではいられません。
加害者家族が人権侵害を訴えても、「犯罪者の家族であることが悪い」として、耳に入れてもらえないという現状があります。しかし、しかし、家族の犯罪について責任を取ることはできません。
大量殺人を犯した父を懐かしむ言葉は怖くはあるのですが、加害者家族から家族を愛する気持ちを取り上げてしまうのも、問題がある気がします。親を許すか許さないか決めるのは、子どもの自由でしょう。
これを読んでも何かが「わかる」ことはなく、人間の心の複雑さや移り変わりを感じるだけです。曖昧な心を話そうとする試み自体は好きです。