ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

社会

『被害者家族と加害者家族 死刑をめぐる対話』原田正治・松本麗華 岩波ブックレット 感想

k あらすじ・概要 殺人事件の被害者の兄と、地下鉄サリン事件を起こした教祖の娘。彼らはお互いに何を感じ、何を語るのか。対話から見えてくる、現代日本の人権の問題、同調圧力やステレオタイプの押し付け。話すことによって問題を捉え直すことを試みる本。…

『地域を変えるソーシャルワーカー』朝比奈ミカ・菊池馨実編 岩波ブックレット

あらすじ・概要 社会的弱者を支えるソーシャルワーカーは、コロナ禍の中どう行動し、何を考えていたのか。ソーシャルワーカーの書いた記事や対談を通して、コロナ禍の中の人々の苦難と、コロナ禍以降の福祉の可能性を語る。 コロナ禍の元でのソーシャルワー…

『報道被害』梓澤和幸 岩波新書 感想

あらすじ・概要 事件のときに巻き上がる、被害者家族や近隣の人への報道被害。過剰な報道はどのように生まれ、どう人々を侵害するのか。報道被害への研究を通して、マスメディアが本当に報道すべきことは何か見えてくる。マスメディアと人々の関係を書いた本…

高橋洋友『自殺予防』岩波新書 感想

あらすじ・概要 ニュースや週刊誌を騒がせる自殺だが、実際どのように自殺を防げばいいかはあまり語られていない。社会や政治の単位でやるべきことや、個人として自殺したがっている人とどう付き合うかまで、精神科医の視点で語る。自殺を望む人を治療に導き…

【パチンコにハマっていく東日本大震災の被災者たち】古川美穂『ギャンブル大国ニッポン』感想

あらすじ・概要 出口の見えない生活の中、パチンコにハマっていく東日本大震災の被災者たち。人は心が弱ったとき、依存症に陥りやすい。著者は日本のパチンコ政策への矛盾や、パチンコへ行くことの容易さの点を指摘する。ギャンブル依存症が多い国として、ギ…

【軍事学者が語る、侵略国家になってしまった国の日常と文化】小泉悠『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』

あらすじ・概要 ウクライナへの侵略によって、「プーチン帝国」と独裁国家として語られるようになったロシア。そこで日常を過ごす国民たちはどんな暮らしをしているのか。軍事学者である著者は、自身のロシアでの生活を振り返りながら、ロシアに生きる人々の…

【文化人類学者がろう者の世界に飛び込んだら違いだらけだった】亀井伸考『手話の世界を訪ねよう』感想

あらすじ・概要 ろう者の世界を想像するときに、つい「聞こえなくてかわいそう」という思考になってしまう。しかし著者がろう者の世界に飛び込んだところ、そこでは豊かなコミュニケーションがなされていた。ろう者のための言語、手話を紹介しつつ、健常者と…

【特殊詐欺や女性搾取を行う形なき犯罪組織】NHKスペシャル取材班『半グレ 反社会勢力の実像』

あらすじ・概要 既存の暴力団の上下関係にとらわれず、集合と離散を繰り返す犯罪組織、半グレ。その犯罪の手口や、組織のなりたちとは。NHKのドキュメンタリーを文字にまとめ、半グレたちのその後を加筆した新書。 暴力団とは違う分裂と集合を繰り返す犯罪組…

自死遺族の苦しみとこれからできる支援―杉山春『自死は、向き合える 遺族を支える、社会で紡ぐ』

、 あらすじ・概要 生きる苦しみによって自ら命を断ってしまう人がいる。自死の悲しみは、当事者だけではなく家族も襲う。自死遺族たちが受けた差別や社会への疎外感、また対策について述べる。自死する人を減らし、自死遺族たちを支援するために、社会は何…

科学者だって間違うしその場の雰囲気に流される―藤野豊『強制不妊と優生保護法 "公益"に奪われたいのち』

あらすじ・概要 障害者やハンセン病の人々に不妊手術を施した悪法、優生保護法。その法律はどのように作られ、どのような歴史をたどったのか。優生保護法の現在までを振り返りながら、優生主義の恐ろしさ、愚かさを伝える本。 科学者だって過ちを犯す 薄い本…

「政治をやる障害者」が語る戦略的にマイノリティ向け制度を作る方法―伊藤芳浩『マイノリティ・マーケティング――少数者が社会を変える』

あらすじ・概要 聴覚障害者として、NPO「インフォメーションギャップバスター」で活動してきた著者。この団体は聴覚障害者向けの電話リレーサービスや東京オリンピック開閉会式におけるテレビ放送の手話通訳の導入を実現させてきた。300人に1人の聴覚障害者…

日本の法律やシステムのせいで困難に立たされた外国人たち―安田菜津紀『隣人のあなた 「移民社会」日本でいま起きていること』

あらすじ・概要 日本に逃れてきた難民、働きにやってきた技能実習生など、日本には様々な外国人や外国にルーツを持つ人々がいる。しかし一部の人たちは日本の法律やシステムのせいで、苦境に立たされている。困難に巻き込まれた日本に住む外国人たちを紹介し…

東京の「女性の貧困」を追う上で見えてきたもの―中村淳彦『東京貧困女子。 彼女たちはなぜ躓いたのか』

あらすじ・概要 かつてアダルトビデオや風俗のライターをしていた著者は、女性編集者と組んで東京に住む人々の貧困を取材する。風俗で働く女子大生、生活がままならないシングルマザー、障害年金で暮らす障害者など、困窮する女性たちは今何を語るのか。 正…

「自分らしく」生きられる社会はなぜこんなにも苦しいのか―宇野重規『〈私〉時代のデモクラシー』

あらすじ・概要 昔より多様性が認められ、自由になったはずなのに、なぜ現代社会は生きづらいのか……。現代の社会学者や過去の哲学者の著作を紐解き、現代社会の「断絶」の解説に挑む。思索することで見えてきた、政治への不信感や虚無感の正体とは。

違いを持った人々が意見を言い合うときそこに政治が生まれる―宇野重規『未来をはじめる:「人と一緒にいること」の政治学』

あらすじ・概要 政治学者、宇野重規はとある女子校で政治学の講義を行い、それを本にまとめることになった。友達同士であれ、国際的な舞台であれ、違った価値観の人の意見が衝突すれば、そこに政治が生まれる。社会における意思決定はどう行われるべきか、若…

限界集落で共同生活を送るニートたちはなぜそこに集ったのか―石井あらた『「山奥ニート」やってます』

あらすじ・概要 とある限界集落。そこで共同生活を送るニートたちがいる。家事をし、最低限の労働をする以外は、アニメを見たりゲームをして暮らしている。ニートたちのリーダー格である著者が、その生活の日々と、「山奥ニート」が発生した由来、社会への思…

ケルト時代から多文化移民社会までイギリス史をダイジェストで知る―近藤和彦『イギリス史10講』

あらすじ・概要 ユーラシア大陸の西の果て、島国として存在するイギリス。ブリテン島で暮らしていたケルト人の時代から、ノルマンコンクエストの時代、イングランド・スコットランドの確執、そして産業革命……。と、イギリスの歴史を10に分けダイジェストで…

冤罪をかけられようとする青年と、警察官の有色人種同士の即席バディ―シマ・シンヤ『ロスト・ラッド・ロンドン』

あらすじ・概要 ロンドンの市長が地下鉄で殺害された。大学生のアルは、同じ電車に乗っていたこと、ポケットに血まみれのナイフが入っていることから容疑者として浮上してしまう。「彼は犯人ではない」と考えた警察官のエリスは、彼を冤罪からかばい真犯人を…

「税金を払いたくない」という願望を巡る攻防と国際政治―志賀櫻『タックス・ヘイブン―逃げていく税金』

あらすじ・概要 個人や企業が金銭を儲けると、その一部を税金として納めなければならない。しかしその納税を回避し、社会に富を還元しない人たちがいる。その裏に存在するのはタックス・ヘイブンと呼ばれる租税回避が可能な地域。著者は税務署で働いた経験か…

最高裁の判決とそれを出した裁判官たちの裏事情―川名壮志『密着 最高裁のしごと―野暮で真摯な事件簿』

あらすじ・概要 三審制の最後の砦最高裁判所。そこではどのような判決が出ているのか、また、どのような裁判官が判決を出しているのか。最高裁のシステムやつくりを解説しつつ、「法の番人」の姿を暴き出す。

江戸時代の豪商や百姓が残した遺言から人生を見る―夏目琢史『江戸の終活 遺言から見る庶民の日本史』

あらすじ・概要 戦国時代が終わり、長い平和が続いた江戸時代。そのころ、庶民はどう社会を見ていたのか。江戸時代の豪商や百姓の遺言を読み、当時の生活や社会の価値観について迫る。老境を迎え、自分の人生を振り返る江戸時代の人々の哀しくもいとおしい姿…

商店街から見る日本の政治史・社会史・商業史―新雅史『商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道』

あらすじ・概要 普段歴史があるものとして認識されている「商店街」。しかしその歴史は意外と新しかった。商店街の発生から衰退までを政治史、社会史、商業史の観点から語り、商店街と地域社会の「これから」を考えていく新書。

ヤクザをやめた男たちは厳しい世間にさらされる―廣末登『ヤクザと介護 暴力団離脱者たちの研究』

あらすじ・概要 今は介護の仕事をしている元ヤクザ。著者が聞き取った彼の半生は、犯罪と裏社会の人間関係で満ちていた。ひとりの元ヤクザの人生を語りつつ、ヤクザを離れた人々のその後を考える。暴対法によってヤクザを排除しつづける社会は、本当に安全な…

情報が飽和するコロナ禍の中でニュースをどう取捨選択すべきか―白戸圭一『はじめてのニュース・リテラシー』

あらすじ・概要 巷にあふれるデマ・フェイクニュース。コロナ禍も相まって、真実を知ることはますます困難になっていく。ニュースを受け取る人々は、どのようにしてその良しあしを判断すればいいのだろうか。新聞記者であった著者が、メディア内部の事情を解…

意見には同意するがあまり信用できない本―神野直彦『「分かち合い」の経済学』

あらすじ・概要 富める者が富み、貧しいものはより貧しくなる資本主義社会。そこから脱却するには「分かち合い」が必要だ。貨幣によらない相互扶助が崩壊した社会で、「分かち合い」のシステムを作るにはどうすればいいのか。経済の今後を語る本。

コロナ禍の中で「普通の人」のモラルが崩壊し始めている―『NHKスペシャル 追跡"コロナ犯罪"』

あらすじ・概要 出口の見えないコロナ禍の中、犯罪に手を染める普通の人々が増えている。持続化給付金を不正受給した主婦集団、闇バイトに手を出す大学生たち。彼らはなぜ、どのようにして犯罪者となったのか。

「イクメン」「働く女性」として生きた男女のリアルな夫婦生活―奥田祥子『夫婦幻想――子あり、子なし、子の成長後』

あらすじ・概要 夫婦関係を研究している著者は、何組もの夫婦を長年追跡調査・インタビューしている。幸せを求めて結婚した人々は、何度もインタビューをするうちに夫婦生活の苦しみや固定観念に囚われていた自分を吐露していく。観察を通して、夫婦それぞれ…

病気の高齢者とシングルマザーが助け合うけどやっぱり限界がある―『わたしは、ダニエル・ブレイク』

あらすじ・概要 ダニエル・ブレイクは大工だったが、心臓病によって医者から働くことを止められた。しかしダニエルは役所からは「就労可能」と見なされ、支給金目当てにしたくもない就職活動をするはめになる。そんな折に出会ったシングルマザー、ケイティと…

どこを対象とした本なのかいまいちわからない―萱野稔人『名著ではじめる哲学入門』

あらすじ・概要 私たちを取り巻く世界とは、いったい何なのだろうか。「哲学」「政治」「民主主義」など、「○○とは何か」という問いの答えを哲学の名著の中から探す。多様化・複雑化する世界の中で、哲学がどう人間と社会を見て来たかを語っていく。

今を考えてだいぶ憂鬱になる本―橘木俊詔『格差社会 何が問題なのか』

あらすじ・概要 日本の長い不景気の中、格差は広がり続けている。なぜ、格差は広がってしまったのか。格差を否定する政治家たちに反論しつつ、格差が生まれてしまったわけを解説する。格差を減らすには、どうすればいいのか……。