ミルグラムの第二審、囚人全員の動画が出そろいました。よかった!
作品の雰囲気としては祝っている場合ではないんですが、こういう尖った作品が打ち切りにならずに進行しているだけでもめでたいです。
せっかくなので感想のまとめを書きたいと思います。
ミルグラムとは何か?
直接的・間接的に人を殺してしまった10人の囚人キャラクターに、視聴者が「赦す」「赦さない」の票を投じる悪趣味音楽企画です。
ミルグラムの音楽は囚人たちの過去や心象世界を示したものであり、MVにはさながら宗教絵のように細かい意味が込められています。
とはいえ悪趣味なだけではなく、キャラクターはマイノリティ属性ゆえに相手を追い詰めてしまったり、直接手を下したわけではなかったり、そこに自由意志が存在したかは微妙だったりします。
キャラクターの罪を追っているうちに、視聴者は自分自身の内面のモラルとも向き合わざるをえなくなります。
第二審おすすめの動画
ここからは第二審でおすすめ・興味深かったの動画を紹介します。本当は全曲紹介したいところですが、まだ考えがまとまっていないキャラもいるので3人だけ。
ムウ「悪くないもん」
「私いじめられっ子なの」みたいな音楽から一転、「やっぱほら私の勝ち」で勝利宣言から始まるMV。
ムウはいじめっ子でしたが、ある時からいじめられる側に転落します。その原因はムウのMVに出てくる女の子が作ったようです。視聴者からは「外ハネちゃん」と呼ばれているのでこの記事でもその呼び方を踏襲します。
ムウのMVでは他のキャラクターが全員蟻の姿をしていますが、外ハネちゃんは人間の姿のまま。そして外ハネちゃんはムウの行為にはっきり嫌悪感を示します。
ムウがなぜ外ハネちゃんに殺害するほどの憎悪を抱いたのか、まだよくわかりません。いじめられる原因になったから恨むのはわかりますが、殺害しても仕方がないとは言えません。
そして、第一審の曲での「あなたが好きよ」という歌詞を踏まえると、ムウが外ハネちゃんに憎悪以外の執着を持っていたのではないかと私は思います。
もしかしたら告白して振られた上に今までの悪行をばらされたんじゃないかな……悪行についてはムウが完全に悪いから擁護できませんが。
「立場がひっくり返る」ことの象徴として砂時計が出てきます。
このままムウがやべえいじめっ子だと赦さない一択なので、もう一段階くらい大変な事実が判明しそうです。
アマネ「粛清マーチ」
ミルグラムはだいたい倫理がない展開ばかりですが、アマネの事情は特に視聴者の倫理観を揺さぶってきます。
アマネはカルト宗教を信じる両親から洗脳を受け、その洗脳から「信仰に背いた親」を殺害してしまいます。殺害に至った理由と、殺害したのが父親か母親かは、今のところ意図的に伏せられているようです。
洗脳によって神罰モンスターになってしまったアマネですが、「あなたに言ったごめんなさい 覚えてますか」と詰問するような歌詞で終わるのがやりきれないです。「あなた」とは自分に体罰を振るった親のことでしょう。
ややこしいのは、アマネの両親はアマネが「(両親に)愛されていました」と答える程度にはアマネを愛していたところです。両親もカルト宗教の洗脳の被害者と言えます。
単純に子どもだからだけではなく、「信仰の自由はどこまで認められるべきか?」「洗脳されて行った犯罪について人はどこまで責任を負えるのか?」「虐待された子どもが親を殺すのは罪なのか?」という多重的な問題も突き付けてきます。
カズイ「cat」
カズイは、自分に惚れている女性に恋愛感情がないのに結婚してしまい、しばらく理想の夫として振る舞ったあと、妻に「本当は愛していなかった」と告げてしまいます。ショックを受けた妻は自死を選んでしまったようです。
なぜカズイは愛のない結婚をしたのか?「カズイの恋の象徴として現れる青いりんご」「カズイは男らしく育ってほほしいという父に育てられた」「禁断の愛のように扱われるカズイの恋」ということを考えると、カズイは同性愛者だったが、世間体を気にして結婚をした、という可能性が出てきます。
しかもカズイは見た目とは裏腹に周囲の目や親からの期待をとても敏感に受け止めてしまうキャラクターです。親の期待に応えたい……という理由から嘘が始まったのはやりきれないです。
性的指向は罪ではないので赦すけど、個人的に妻は何も悪くないので妻には謝ってほしいです。妻がブチキレてカズイを罵ってくれればよかったのにね……。
まとめ:ミルグラムに今後期待すること
以上、第二審で印象的だったMVをまとめました。
ミルグラムはとても面白いシリーズですが、好きかどうかと言われるとまだ微妙なところではあります。宗教二世の問題、同性愛の問題、精神疾患や家庭環境の問題と、社会のややこしい問題を扱っているからです。ミルグラムという作品が出した結論によっては、この作品を嫌いになってしまうこともあるかもしれません。
こうして視聴者の倫理観をゆさぶり、この社会には自分とわかりあえない人間がたくさんいると突き付けるのであれば、原作の出した答えはきちんと視聴者の想像を超えるものであってほしいです。
↓ちなみに小説版は設定を踏襲しているだけの別物らしいです。
わかり合えないことの向こう側へ行く作品であることを望みます。
いろいろ言いましたが、どこから見ても大丈夫なシリーズだと思うので、まずは気になった動画を見てみてください。