あらすじ・概要
フォン・アーレンスマイヤ家の庶子であったユリウスは、母親の意向で男の子として育っていた。男の姿のまま男子校である音楽学校に通うが、そこで「オルフェウスの窓」から姿を見られてしまう。オルフェウスの窓から誰かを見たものは、その誰かと熱烈な恋をし、悲劇的な別れを経験するという。
ドロドロ恋愛模様とロシア革命の運命が面白い
恋愛模様がドロドロ!
登場人物ほぼ全員が人に言えない恋をしているんじゃないかというレベルでこじれます。ここまでこじれると逆に冷静になってきますね。昼ドラなんかでも恋愛がドロドロになるほどリアリティを失ってギャグのように見られるのと近いです。
愛憎に関してはひたすら複雑ですが、どんな登場人物も人間的な弱さを抱えており、過ちを犯したとしても完全に嫌いにはなれなません。その人間味によってぎりぎりのところでエンタメ性を維持しています。
ユリウスは男装の女性。遺産を娘に残したい母親の思惑によって男として育てられます。早い段階で女性とばれるんですが、彼女にはそれ以上の困難が待ち受けています。
母親や父親を失ったり、ロシアとドイツの間の陰謀に巻き込まれたり、クラウスを追ってロシアに向かったり、幽閉されたり。
何度不幸に巻き込まれるんだ…という不幸さ。でもそれでも立ち上がれる強さを持った女性でもあります。
(表紙はフェアベル版)
ヒーローのひとりイザークは、貧乏な家に育ちながらも、たぐいまれなピアノの才能を持っています。
一度ユリウスと別れたあとは別の人と付き合ったり結婚したりします。一途ではないんかい。
でもこういう優しくしてくれる人がいたらホイホイ好きになってしまうでしょう。恋愛関係としては修羅場ですが、気持ちはわからなくもないです。
イザークの恋の果ての結末も、過酷ではありますが美しかったです。
後にロシア人と判明するクラウスことアレクセイ(6巻表紙)は、ロシア革命に荷担し追われる身です。
アレクセイはロシアを変えることに夢中ですが、その後の顛末を知っている読者としては苦い気持ちになります。アレクセイが理想に燃え上がるほど、ソビエト連邦がどれだけの破壊行為を繰り返したのかを思い出してしまいます。
あのころの、社会を変えたいという気持ち自体は本物だったのでしょうね。それだけでは平和はもたらされないという事実がつらいです。
最後まで共産主義が否定されずに終わるのは、昔の作品っぽさがあります。現代は共産主義を肯定しづらいですからね。
ストーリーに突っ込みどころはあるものの、波乱万丈で力のある作品でした。面白かったです。