白泉社文庫の漫画を読んでいました。今回はその中から面白かったものをまとめました。
- 『ガートルードのレシピ』草川為
- 『綿の国星』大島弓子
- 『赤ちゃんと僕』羅川真里茂
- 『ニューヨーク・ニューヨーク』羅川真里茂
- 『メイプル戦記』川原泉
- 『笑う大天使』川原泉
- 『日出処の天子』山岸凉子
- 『ざ・ちぇんじ!』山内直実・氷室冴子
- 『ブレーメンⅡ』川原泉
- 『22XX 』清水玲子
『ガートルードのレシピ』草川為
少女サハラはつぎはぎの悪魔、ガートルードと出会う。彼は自分の設計図「ガートルードのレシピ」を探していた。体の一部を返してほしい悪魔や、ガートルードのレシピを狙う者たちと戦いながら、サハラとガートルードは恋を育んでいく。
人間の少女サハラの元に、ガートルードたち悪魔が現れる話。ファンタジックでスピリチュアルな少女漫画でした。
悪魔と人間のラブストーリーという禁断愛として扱われそうな題材にもかかわらず、恋愛要素は淡々としています。サブキャラには面倒なやつもいますが、主人公コンビはあっさりとお互いの愛情を確かめ合います。そこが新鮮でした。
ガートルードも、「自分が不確かなのが怖い」と思っていたのに、サハラと出会って少しずつ変わっていきます。
後半で明かされる、ガートルードの制作過程は恐ろしくも悲しかったです。ストーリー全体から見れば悪役にも見えるキャラクターが、苦しみ傷ついていたことを見せられるとやるせなくなりました。
『綿の国星』大島弓子
とある家庭に拾われたチビ猫は、自分も大きくなったら人間になるのだと信じていた。しかし猫は人間にはなれないと教えられ、ショックを受ける。野良猫飼い猫、純潔種や雑種など、猫と人間たちの関係を擬人化したキャラクターで語るシリーズ。
幻想的でスピリチュアルな描写が多く、感想が書きづらい作品です。
猫が猫耳の人に擬人化されて描かれています。一方で、猫としての描き方にはリアリティがあり、猫が病気になって苦しんでいたり、母猫が子猫を食い殺したりします。
著者はおそらく、猫をよく観察したことがあるんだろう、と思えるほどあるあるネタが多いです。
昔の作品なのもあって、作中における猫の扱いは雑です。子猫を外飼いしたり、ねこまんまや残飯を食べさせたり。この作品の真似をして猫を飼ったらだめですね。この辺りのシーンはぎょっとしました。うちの猫は完全室内飼いでしたので。
母猫がストレスで子猫を食べてしまう話題の回もちょっと怖かったです。
『赤ちゃんと僕』羅川真里茂
事故で母親を亡くした一家は、父と息子ふたりで暮らしている。小学生の拓也は、いつも弟の実の面倒を見なければならない。まだ赤ちゃんの実は、とても手がかかる。拓也は実に振り回されつつも、学校や近所の人とふれあって成長していく。
幼児はかわいいけど……面倒くさい!! というテーマが前面に押し出された作品でした。
現代で言うヤングケアラーの物語で、拓也は「実を愛する気持ち」と「家事や子育てが面倒な気持ち」の間で揺れ動きます。
拓也の父もできた父親なのですが、状況的にどうしても拓也を頼らざるを得ないときもあり、父親として葛藤します。その姿が悲しくもいとおしかったです。
この漫画は、多様な価値観を描こうと努力しています。働く女性、専業主婦、手芸や料理などいわゆる「女性らしい」趣味が好きな男性、結婚前に子どもを授かってしまった夫婦など。
漫画の中では、迷い、立ち止まりこそすれ、マイノリティの人々が否定されることはありません。そこに優しさを感じました。
『ニューヨーク・ニューヨーク』羅川真里茂
ゲイのケインは、メルという男性と運命的な出会いをし、付き合い始める。しかし、メルの悲しい過去や、ゲイに対する周囲の無理解によって、傷つくことも多かった。将来を誓ったふたりはゲイ教会で結婚をする。ところが、結婚してすぐメルが失踪してしまった。
今まで読んだBLの中で一番カップルがいちゃついている気がしますが、話自体はシリアスなものでした。
運命的な出会いをしたゲイカップルのケインとメルですが、家族との問題、職場や世間の無理解に苦しむことになります。
登場するゲイの人たちは善人ではなく、ずるいところもいい加減なところも抱えています。しかし、こういう善人でない人たちも幸せになれないと公平な社会とは言えないのでしょう。
女性と偽装結婚をしたゲイ男性の顛末や、ゲイの家族でいることへの苦しみを見ると、ゲイの人たちへの抑圧は、周囲の人たちも不幸にしているのだなと思います。
『メイプル戦記』川原泉
とあるお菓子会社の女性社長の思い付きで、結成された女性だけの野球チーム「スイート・メイプルス」。いろいろな事情でメイプルスにやってきた女性たちは、ときに悩みときにのほほんとしながら、優勝への階段を駆け上がる。しかし、シーズン後半でメイプルスは壁にぶち当たる。
女性チームが男性だらけのプロ野球で優勝するという夢物語ではありますが、それゆえに面白かったです。
女性がスポーツで男性に拮抗できるというシナリオ自体が現実には無理です。だからこそ、思いっきり抑圧や固定観念から解放される女性を描いた方がいいというのは正しいです。
チームには亭主関白すぎる野球選手の夫から逃れて自ら野球選手になった仁科や、男性なのに男性を好きになってしまい、女性として生きることを望んだ瑠璃子がいます。
彼女らは、さまざまな葛藤を抱えながらも、プロ野球を通して自分を抑圧するものと向き合っていきます。
そして彼女らを見つめるチームメイトが優しく、ときに助け合う姿が素晴らしかったですね。
『笑う大天使』川原泉
聖ミカエル学園という超お嬢様学校に通う三人娘。彼女らはお互いが庶民出身だということを知り、意気投合する。そんな中、女子高の女の子を狙った誘拐事件が多発する。ふざけた理科実験で怪力の力を得た三人娘は、誘拐事件に巻き込まれていく。
「大天使」と書いて「ミカエル」と読みます。
のんべんだらりという雰囲気であるとともに人助けをするところが面白かったです。
正直設定の部分はめちゃくちゃなのですが、そのめちゃくちゃさを楽しめるだけどギャグセンス、雰囲気の作り方が上手いです。整合性が取れている=面白いではないと感じさせます。
主人公三人娘も、生粋の主人公気質ではなく、面倒なことを回避しようとしたり、目立つことを嫌がったりするところが親しみやすかったです。
主人公なので結果的に問題を解決するのだけれど、解決した後でも一貫してとぼけたキャラクターなのが趣深いです。
また、ベタなオチからあえて外したような結末が面白かったです。「いつものやつ」じゃない展開がいいですね。
『日出処の天子』山岸凉子
古くからの神道を信仰する人々と、大陸からもたらされた仏教を支持する人々が対立する古代日本。蘇我家の少年毛人(えみし)は不思議な王子、厩戸皇子と出会う。彼は超常的な能力を持ち、周囲の人を政治的に操っていた。一方で、彼には、「女性を愛せない」という、当時の家父長制社会では大きな欠点があった。
主人公である厩戸皇子は、たまたま同性を好きになったといつより、最初から異性には性的欲求を覚えない、同性愛者として描かれています。
しかし、血縁ありきで繋がる社会では、子どもを持てない人間は一人前ではありません。
女性を愛せない、抱けない厩戸皇子は、有能で超能力があっても、社会に受け入れられない人なのは、切なかったです、
厩戸皇子はかわいそうな過去がある一方で、残酷でわがままなキャラクターでもあります。理不尽な理由で怒ったり、毛人と布都姫の間をとんでもない方法で引き裂こうとします。
その行為は現代と倫理観の違う作中でも許されない行為です。その証拠に、厩戸皇子は作中で大きな報いを受けます。
哀れでもあり、報いを受けるべき罪人でもある両面性が、厩戸皇子の魅力でした。
『ざ・ちぇんじ!』山内直実・氷室冴子
平安時代のとある帝の時代。綺羅姫と綺羅中将は、実は性別が逆。綺羅中将は女なのに女性と結婚する羽目になり、綺羅姫は尚侍として女東宮に使えることとなる。嘘が嘘を呼び、事態は混乱したまま綺羅中将が妊娠したと勘違いしてしまい、周囲の人間を置いて失踪する。
原作の氷室冴子の『ざ・ちぇんじ!』が『とりかえばや物語』の翻案なので、この漫画はさしずめ三次派生作品といったところでしょうか。
原作のあらすじはなぞりつつも、改変をした部分も多いので、『とりかえばや物語』について知りたい人は他のコミカライズを当たったほうがいいでしょう。
女性から見てかわいいと思えるキャラクターが多くていいですね。三の宮は一途だし、女東宮はわがままだけどたくましいし、癖があっても魅力的です。
あり得ないような展開が続くのですが、それでもさくさく読めて笑える面白さです。
男たちのドタバタも楽しかったです。
『ブレーメンⅡ』川原泉
宇宙船ブレーメンⅡの船長に抜擢された主人公は、そこで知性ある動物たちと働くことになる。初めてのことに戸惑いながらも、主人公は動物たちと困難を乗り越えていく。旅の終わりに、出会った1匹の黒猫とは……。
虐げられたもののために、みんなが立ち上がるシーンは何だか泣けてきます。本当にこういう世界であればと思いました。
テンポがいいのでサクサク読め、それぞれの話がポジティブな形で終わるので、疲れているときに染みる話です。
とはいえ黒ヤギと白ヤギの話は悲しいですが、それでも希望のある終わり方でした。
女性主人公なのに、好いた惚れたの話がなく進むのがいいですね。恋愛をするキャラクターはいますが、それはゲストキャラです。主人公は一切恋愛しません。
それでもわざとらしくなく、自然に話が進むのもよかったです。
『22XX 』清水玲子
ある星に賞金稼ぎにやってきたロボットのジャック。そこで出会ったのは、人食い種族の少女だった。求婚されたという勘違いから、彼女はジャックの子どもをつくろうとする。しかしジャックはロボット。どうあがいても子どもはできないのだが……。
ジャックは「食べること」に対して強い罪悪感を持っており、食欲を失うことを望みます。
そんなジャックの前に現れたのが、人食い種族のルビィ。彼女にとって食べることは非常に神聖なこと。このふたりの対比が、作品の主軸です。
食べることに嫌悪感と罪悪感を持つジャックを見ているとこっちまでつらかったです。そんなジャックが、食べることで相手の生を取り込み引き受けていくルビィにあこがれというか、うらやましさというか、淡い恋のような感情を抱いていくのがよかったです。
「食べること」とは何か、というテーマを、宗教的ともいえる視点から描き出していくSF漫画でした。やっぱり読み返しても面白かったです。
昔のSFなので古いところもありますが、それを踏まえてもやっぱり好きです。