ブックワームのひとりごと

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『この闇と光』服部まゆみ 角川文庫 感想

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この闇と光 (角川文庫)

 

あらすじ・概要

盲目のレイア姫は、父とともに暮らしている。レイアを溺愛する父との関係は、レイアが成長するにつれて不穏なものになっていく。レイアをいじめるダフネの存在や、外の世界のこと。やがて父とレイア姫の決定的な別れがやってくる。

 

自分は高尚だと思っていたい気持ちと不安な気持ちと

耽美小説というよりも、何だか身につまされる話でした。

小説は盲目のレイア姫とその父親のやりとりから始まります。最初は童話のように美しいふたりの関係ですが、だんだん不穏な要素が増えていきます。レイアを虐待する侍女ダフネ、そして私たちが生きる世界との共通性。

物語には文学作品や絵画など、いくつもの実在する作品が登場します。レイア姫はドフトエススキーや夏目漱石を読みながら成長します。

 

中盤に衝撃的な展開が起こりますが、物語はそこで終わらず、読者の心を動かす展開が続きます。

 

物語は一貫して厭世的な雰囲気です。根底にあるのは、「自分は美の本質を知っていて、他人はとても低俗的だ」という驕りと、「でも、低俗的な人生こそ実は本物で、自分は人を愛せないでき損ないなのではないか?」という不安です。

他人の低俗さが受け入れられないから自らの美しい物語にすがってしまいます。ですが、その低俗さは自らの中にもあるのです。

その姿は推しを作ることで現実の問題から逃避する、オタクカルチャーにも通じるものがあって、やるせない気持ちになりました。

 

作中にはアブラサクスという言葉が出てきます。アブラサクスはグノーシス主義のアイオーンのようです。

教義が独特でややこしいのですが、グノーシス主義が「偽の神が世界を作った」と主張していることを考えると、示唆的です。

アブラクサス - Wikipedia

 

 

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