今日の更新は、小野不由美『白銀の墟 玄の月』です。
今回は同時刊行ということで記事を分けずにレビューします。
あらすじ・書籍概要
戴国に帰還した泰麒は、女将軍李斎(りさい)とともに主人である驍宗(ぎょうそう)の行方を追う。しかし泰麒は、李斎に黙って別行動をとり始めてしまった。彼が向かった先は……。
システムの枠を超えた麒麟の行く末は
いやほんと、泰麒に対しては「立派になって……」という気分です。
麒麟は十二国記世界におけるシステムの一部であり、王を選ぶためだけに存在し、最後は失道という病によって王を崩御させます。読者にとっても「感情のある舞台装置」みたいな存在です。
ストーリー上も麒麟の立場というのはどこか受け身で、景麒も延麒も囚われて王に助けられる側だし、ちょい役で出てくる他国の麒麟たちも、積極的に周りに働きかけるシーンというのはあまりありません。
しかし『白銀の墟~』の泰麒はその枠組みを超えて、自分から敵の前に出向き、策謀や打算をもって対峙してのけます。
(この辺、どこまで本当なのか読者もわかりませんが)
しかし振り返ってみると泰麒はそもそも『風の海 迷宮の岸』で驍宗を助けています。あのシーンは『白銀の墟~』の伏線だったのか?
もはや、泰麒は「慈悲の獣」「王位の象徴」「天命をもたらすシステム」である麒麟の形には収まらなくなっているのではないでしょうか。
それは角を失ったからなのか、蓬莱で長く過ごしたからなのかはわかりません。でも膠着状態になった戴を救うには、彼はそういう存在にならなければいけませんでした。
といいつつ、二巻ラストのアレとか、阿選のやる気のなさとか、わからないことは山積みで、いくらでもひっくり返る余地はあります。
でも八方ふさがりでハードモードな展開の中で、麒麟としてではなく「個」の自我を強く持ち始めている泰麒は救いでした。
阿選も大概よくわからない人物で、名声や富をほしいままにするでもなく、破壊に酔うでもなく、ただ歯向かうものは滅ぼし、あとは放置。感情があまりにも読めないので恐ろしいです。
これで驍宗に反逆する前は、むしろ人徳者で能力のある将軍だったのがさらにおっかないのですが……。
わからないことだらけですが、戴国の民にはみんな幸せになってほしいです。脇役キャラもいつかは平和を手に入れてくれ。
脇役キャラがよすぎて戴国箱推しになってしまったのでお願いします。
まとめ
わからない……なにも……という感じの一、二巻でしたが、泰麒がたくましくなったことだけは救いでした。頼む、李斎と一緒に戴を救ってくれ!
完結は一か月後というのが遠く感じます。