今日の更新は、柞刈湯葉『人間たちの話』です。
あらすじ・概要
姉の子を引き取った学者が地球外生命体の研究と向き合う表題作ほか、雪に覆われた日本で南を目指す男と少年、相互監視が行き届いた世界で楽しく暮らす人々、どんな宇宙人たちにもラーメンを提供するこだわりのラーメン屋などを描いたSF短編集。
こんな人におすすめ
- 短編SFが好きな人
- 人を食ったような展開が好きな人
- ちょっとひねくれている人
奇想天外なアイデアを堅実に落とし込む
相変わらずアイデアを小説に落とし込むのがうまいですね。発想は独特だけれど、それを描く方法は手堅くて好感が持てます。
全体的にひねくれた雰囲気を醸し出しつつも、ひねくれた先に科学や社会への洞察がありました。
あと文章が以前の作品よりずっと読みやすくなりましたね。おすすめしやすくなりました。
非常に面白かったのが「たのしい超監視社会」。ジョージ・オーウェルの『一九八四年』のパロディで、国民による相互監視でプライバシーも自由もない世界なのに案外人々は楽しく暮らしている話です。
もちろん体制に反抗するレジスタンスが登場するのだけれど、そのレジスタンスに主人公がやったことが非常にブラックで後味が悪いです。自由という概念を失い、圧政を受けながらもへらへら笑っている民衆が怖すぎますね。
「宇宙ラーメン重油味」は、スペースオペラ的な世界観でラーメン屋を営む男性の物語。宇宙人たちは人間とは食べるものが違うため、重油やシリコン、果ては多種多様な有機物の混ざったスープなどを提供しています。
ストーリー上はメシテロ作品のはずなのに、読者である人間にとっては何もおいしそうではないところがちぐはぐで面白いです。
そして店主の揺るがぬプロ意識はお仕事ものとしてもかっこいいですね。
「No Reaction」は透明人間の少年が人間観察をしているうちに、ひとりの女の子に恋をする話。透明人間は透明というより、他のあらゆる「もの」からリアクションが得られません。つまり人にぶつかっても転ぶのは透明人間だけ、話しかけても誰も返事をしない、ドアも開けられないので閉じ込められてしまうと動けません。
そのような存在が、女の子の危機に直面し、どうにか助けようとする展開が面白かったです。メタっぽいオチも好き。
本編とは関係ない部分ですが、著者自身による解説がとても面白いです。よくわからん作家の身内ノリを置くぐらいならこういう自分で書いた経緯を述べてくれる方がいいですね