ブックワームのひとりごと

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「イラっと来る」をうまくコントロールしたお仕事小説―青木祐子『これは経費で落ちません! 経理部の森若さん』

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これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~ 1 (集英社オレンジ文庫)

今日の更新は、青木祐子『これは経費で落ちません! 経理部の森若さん』です。

 

あらすじ・概要

天天コーポレーション経理部に所属する27歳のOL、森若沙名子。会社の簿記やお金の管理をして働く毎日だ。その経理部に、従業員たちはやっかいごとを持ち込んでくる。淡々といつも通り仕事をしたい沙名子は、そのたびに日常を乱されてしまうのだが……。

 

「イラっと来る」のは相手もかもしれない

いわゆる最近はやりの「ストレスのない作品」とは真逆を行く小説でした。キャラクターたちはほぼ全員イラっと来る欠点を抱えています。公私を混同して、主人公沙名子が属する経理部に迷惑をかけることもしばしば。序盤の方は読んでいて愉快な作品ではありませんでした。

しかしその「イラっと来る」部分の描き方が非常に上手です。誰かを一方的に悪者にせず、まんべんなく嫌なところ、だめなところを出していきます。そして、だめだからといって、簡単に見捨てられないようなその人物の美徳も描いています。著者、おそらく、このいらだちを狙ってコントロールして書いているんですよね……。手のひらで転がされている感じが恐ろしいです。

そして沙名子自身も、淡々と仕事をこなすことに異常なほどこだわり、頑なで仕事以外では柔軟性に欠けるところがあります。欠点を抱えているのは、主人公含めてのこと。そこが公平でいいですね。

この作品を読んでいると生まれてくる、価値観の違う他者へのいらだち。しかし、そのいらだちは、おそらく他者が自分へと向けているものと同じなのでしょう。そう思うと、とても優しい作品に思えてきました。

 

それからメインストーリーとは関係がないのですが、女性のファッションの描き方にリアリティがあるのがいいですね。どんな服を着ているか、どんなネイルをしてどんな髪型をしているかに、そのキャラクターの個性が出ています。著者は普段から身の回りの人を観察しているのでしょうね。

 

◎ここからネタバレ◎

ミステリっぽい展開をするときもありますが、当の沙名子が謎を解く気がまったくないのでミステリと言っていいものか。しかしさりげなく挿入される伏線、事実が明かされたときの楽しさはミステリですね。

ラスト付近で沙名子は営業部の太陽といい感じに。今後どうなるのかわかりませんが、自分の殻に閉じこもっていた沙名子が、少し外に出てもいいかな、と思えるようになったことは喜ばしかったです。

しかしその太陽関連のシーンが、色気がなくてちょっと笑いました。あれが精いっぱいなのでしょうね。

これは経費で落ちません! DVD-BOX

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  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: DVD