ブックワームのひとりごと

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婚約者にふられて空軍の傭兵部隊に志願した男がエースパイロットを目指す―須賀しのぶ『天翔けるバカ flying fools』

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天翔けるバカ flying fools (集英社コバルト文庫)

 

あらすじ・概要

幼なじみにふられて売り言葉に買い言葉に、空軍の傭兵部隊にに入隊したリック。そこは、変わり者の巣窟だった。曲芸飛行で培った飛行技術も、ここでは通用しない。それでもリックは勝ち気で図々しい性格を生かし、部隊でエースパイロットになろうと奮闘する。

 

いつか失われる「バカ」を描く作品

男のプライドとノスタルジーと愚かさの話でした。それでも嫌な気持ちにならないのは、そういうあり方を「バカ」として定義されているからでしょう。

作中の空軍には一種の騎士道精神がはびこっていて、負けた相手に花を投げるし、一対一で決闘をしさえします。

のんびりしている……と思いきや、歩兵部隊は完全に使い捨てにされていることが地の分で語られます。彼らのやっていることは時代錯誤の行為なのです。

 

こんなのんびりした戦いがいつまでも続くはずはなく、作中ではこの騎士道精神を「失われゆくもの」として書かれています。そりゃこんな金持ちの道楽みたいな戦争をいつまでもやっていられるはずがありません。

しかも道楽にしてはかかっている命が多すぎます。

だから彼らは「天翔けるバカ」なんですね。

同時代の人間として彼らを見たら「何てのんきなやつらだ」と思ったかもしれないけれど、フィクションとして読むと一抹のうらやましさを感じました。彼らは自分の望むように「命」を使っているのですからね。

 

ことあるごとに告解を迫るパードレ、陽気なロシア人のピロシキなど、登場するキャラクターも濃くて面白かったです。

劇的な展開や伏線のないタイプの作品なんですが、それでもよかった。