ブックワームのひとりごと

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認知症の祖母のために東日本大震災で流された家を再建―ニコ・ニコルソン『ナガサレール イエタテール』

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ナガサレール イエタテール

 

あらすじ・概要

東日本大震災の津波により、家が流されてしまった著者の実家。認知症が進み、故郷を恋しがる祖母のために、母は家の建て直しを決意。しかしそんな折、母ががんに侵されてしまう。著者は認知症の祖母と病気の母に代わって、実家を建てる音頭を取ることになってしまうが……。

 

人は正しい判断をすれば幸せになれるわけではない

面白いというよりも、他人の人生の1ページを垣間見たような作品でした。

正直津波で流された場所にもう一度家を建てるより、親類を頼って関東で暮らす方がよほど安全です。今後乗り越えなければいけない介護の問題も考えるとそうでしょう。

しかし故郷に帰り、仮設住宅へ入り、知り合いや故郷の風景を見たとたんに生き生きとし出す著者の祖母を見ると何も言えなくなってしまいます。

「正しい判断」をすれば人は幸せに生きられるわけではありません。ときには正しさより心を優先する必要があるのでしょう。

 

大震災、病気、認知症と波乱万丈な話題が続きますが、ほどよく力の抜けた語り口で、暗くなりすぎずに読めました。

不謹慎にならない程度の不真面目さがあるから、つらい状況も笑い飛ばせます。

一方で避難時の心細さや恐怖など、実際に体験しないとわからないようなネタもあり、シリアスなときはすごくシリアスです。

 

最後に家が完成したとき、嬉しそうな著者の祖母の姿を見てほっとしました。ここでハッピーエンドというわけではないでしょうが、その姿を見られただけでもこのコミックエッセイを読んでよかったです。