あらすじ・概要
戦国時代が終わり、長い平和が続いた江戸時代。そのころ、庶民はどう社会を見ていたのか。江戸時代の豪商や百姓の遺言を読み、当時の生活や社会の価値観について迫る。老境を迎え、自分の人生を振り返る江戸時代の人々の哀しくもいとおしい姿を見ていく新書。
江戸時代の豪商や百姓だって人間関係や社会のことについて悩む
遺言が残っているのは読み書きができ、なおかつ遺言を残しておこうと思う家族がいる人たちなので、読んでいくのは必然的に豪商や名のある百姓のものになります。ある意味家父長制社会の勝ち組と言ってよく、家長としてその家を治めていた人たちです。
しかしそんな、運にも努力する力にも恵まれた人たちが、親子の関係に悩んだり、変わりゆく社会に複雑な心境を抱いたりするのが面白いです。
私も「人間関係のこと」「社会と自分との折り合いのこと」はよく悩むんですが、江戸時代の人もそういうことに悩んでいたと知るとちょっと安心します。これは生きている限りずっとついて回る悩みなんだろうなあ……。
特に放蕩息子に悩まされ、怒って「孫に家督を継がせる」と遺言をしつつ、息子が野垂れ死なないようにいろいろ気を回している遺言が面白かったです。こういう家庭の悩みは江戸時代にもあったんですね。
放蕩息子への怒りと、それでも残る親子の情に、何だかしみじみ感じ入ってしまいました。
内容をちょっと想像で補っている部分はあるものの、わからない部分は「わからない」と書いておいてもらえるのは好感が持てます。出典は示されているので、疑問があれば自分で調べればいいし。
大変面白い内容の新書でした。