あらすじ・概要
田舎から東京に出て、劇場、ムーランルージュのオーディションを受けたとし子。そこで下働きとして働くが、ある日劇場のスターの代役として舞台に立つこととなる。とし子はそこで明日待子と名前を改め、「アイドール」として人々に愛されるようになった。だが第二次世界大戦のさなか、日本社会はどんどん軍国的になっていき……。
戦争に行く人の背中を押してしまった罪悪感
「おちょやん」の脚本家が手掛けたドラマと聞いて見てみましたが、1時間ちょっとのドラマとは思えないほどしっかり内容の濃い作品でした。
人気者になり、ちやほやされてちょっといい気になっていたとし子、もとい待子が、戦争というものの現実に触れ、戦争に行く人間の背中を押していたことに深い罪悪感を覚えるその落差。
待子に戦争を止める力はないし、待子がいなくても兵士は死んでいくでしょう。しかしプロパガンダに気づかず協力してしまっていた自分自身に、待子は深く傷つきます。
それでもムーランルージュのマスターは、どうにか公演を続け、ショービジネスの文化を残すことを望みます。苦しい現実がある時代だからこそ、人々に娯楽は必要だからと。
待子やマスターも含め、人間は自由ではありません。だからこそ、自由を歌い、それに耳を傾ける場所が必要なのでしょう。
舞台の上で自由を歌うこと、自由が表現された舞台を見ることで、人は心の支えを得るのです。
脚本や演出がいいだけにセットがちゃっちいのが残念だけれど、日本でこの作品を撮れるような場所はそう選ぶ余地ないでしょうから仕方ないと言えば仕方ないんでしょうね……。