あらすじ・概要
ロンドンの市長が地下鉄で殺害された。大学生のアルは、同じ電車に乗っていたこと、ポケットに血まみれのナイフが入っていることから容疑者として浮上してしまう。「彼は犯人ではない」と考えた警察官のエリスは、彼を冤罪からかばい真犯人を見つけようと奔走する。
サスペンスというより犯罪を中心とした人間関係の話
サスペンスとしては劇的な展開はなく、そういう方向性を求めていた人はちょっとがっかりするかもしれませんが、この作品の本題は「犯罪を中心とした人間関係」でしょう。
南アジア系のアルとアフリカ系のエリスの、有色人種同士、社会におけるマイノリティ同士のバディや、アルやエリスを取り巻く友人や仕事先の人々。多民族の町と化したロンドンで、誰もが悲哀を感じて生きています。
人種差別がテーマのひとつですが、「劇的に社会を変えよう」というネアカで革命的な路線ではありません。社会で人種的マイノリティとして生きることのどうしようもない苦労や悲哀を描きつつ、何気ない人の優しさや、心を通わせる瞬間が、人を支えるのだということが示されています。
アルのアルバイト先の中華料理屋や、エリスの同僚のアジア系やイスラーム系の人々との交流が、この作品に救いをもたらしています。
また、疑似親子とも師弟関係ともつかない、アルとエリスの期限付きの奇妙な関係もよかったです。「名前のつかない関係」が好きな人にはおすすめです。ロマンチックというよりあっさりしているところもまたいい。
淡々としたせりふ回しや構図にはくせがあり、最初は読みづらかったですが、慣れるとすらすら読めるようになりました。モデルの一つは英米のサスペンスドラマでしょうが、それに対するアンチテーゼも同時に感じました。
劇的に面白いという作品ではないですが、しみじみ噛みしめるようにゆっくり読みたくなる作品でした。