ブックワームのひとりごと

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大阪を舞台に営まれる男女の愛と葛藤―田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』

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ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)

 

あらすじ・概要

車いすで暮らすジョゼは、同棲し自分を世話する恒夫を「管理人」と呼ぶ。奔放でわがままで、でもどこか憶病なジョゼは恒夫とさまざまなところへ行く。ふたりの微妙な関係はどうなるのか……。表題作ほか、大阪の男女の営みを描く短編集。

 

アニメ映画とはまったくの別物で驚いた

アニメ映画とは違う展開だと聞いて読んでみたのですが、ほぼ別物で驚きました。原作のファンは嫌だっただろうなあ、というレベルの改変です。

honkuimusi.hatenablog.com

アニメ映画が「障害者が一歩踏み出す」というありがちで陳腐な結末にしてしまっているのに対して、原作はジョゼと恒夫の間にある閉塞感とエロティックな雰囲気を描いています。

短編で、そもそも映画化するには短く、オリジナル要素を入れなければ間が持たないことを考慮に入れても、あまりよくないメディアミックスですね。

 

短編集として好きだった話は「荷造りはもう済ませて」です。子どもを持つ男性と結婚することになり、「子どもを引き取らず、男性の実家に住まわせてお金だけ送る」という選択をした女性えり子の話です。男性の実家にかつての元妻が住み着いたことで、えり子の心はざわめきます。

夫婦が恋人同士のように暮らす幸せ。しかしその幸せは本物なのかと考えてしまうえり子。しかしえり子以外の女性たちも自分の幸せを振り返って悩んでしまう瞬間があるだろう、という結末が面白かったです。

 

昭和の作品なので、全体的にジェンダー観も倫理観も古いです。でもそれより気になったのは、作品に「これからも日本の好景気は続くだろう」というぼんやりとした期待があったことです。そこがキャラクターへの共感を妨げていました。でも私が不景気の時代に生まれ育ったからで、逆に100年ぐらい過ぎたら気にならなくなるのかもしれません。