ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

昭和

『てんてん手帖』細川貂々 集英社 感想

あらすじ・概要 漫画家、細川貂々はアンティークなもの、古いものが好き。古いものを作ったり売ったりしている店に行ったり、骨董市に出かけたり、縁起物を買ったり。自分のペースで古くてかわいいものを楽しむ姿を描く。 古くてかわいいものについて語る著…

『犬神家の一族』市川崑 感想

あらすじ・概要 一代で莫大な財産を築いた犬神家を訪ねた探偵、金田一。そこでは当主の死による遺産相続の争いがあった。斧・琴・菊のモチーフとともに次々と殺されていく犬神家の一族。金田一は事件を解決する糸口を探す。 昭和のイエ制度と戦後の不穏さ い…

『オーロラの街』山本おさむ ビックコミックススペシャル

あらすじ・概要 小学五年生の幸子は、久保というクラスメイトが気になるようになる。彼女は貧困家庭に暮らしていて、周囲からいじめを受けていた。幸子と久保は、友達になるが……。とある町を舞台に、貧困や差別、そしてそこから立ち上がろうとする人々を描い…

山本おさむ『わが指のオーケストラ』秋田書店 感想

あらすじ・概要 音楽家になりたかったが家庭の事情で諦めなければならなかった高橋潔。彼はろう学校に就職し、そこでろうの子どもたちが手話を覚え、社会を学んでいく姿に感動する。しかし口話法という、ろうの子どもたちに無理に聴者の言葉を教える教育法が…

【「東洋一」を目指した図書館の歴史と、「何のために本を集めるか」問題の変遷】長尾宗典『帝国図書館――近代日本の「知」の物語』

あらすじ・概要 「東洋一」を目指して作られた日本の帝国図書館。しかし、その歴史は平坦なものではなかった。図書を買う金銭が不足していた時期、マナーの悪い利用者、そして太平洋戦争中の略奪と検閲。悪い面もある歴史とともに、帝国図書館と日本の図書館…

【京橋のキャバレーで昭和と平成を舞った女】高殿円『グランドシャトー』

あらすじ・概要 義父と結婚させられそうになって逃げだしてきたルーは、京橋のキャバレーグランドシャトーにたどり着く。ルーはそこのホステスとして働くことになった。キャバレーのナンバーワン、真珠はどこか不思議な魅力を持つ女性だった。ルーは寮で真珠…

【鼻・白・杜子春】YouTubeで芥川龍之介の朗読を聞いたので感想を10本まとめた

久しぶりに朗読が聞きたくなり、YouTubeで青空文庫の朗読を漁っていました。 芥川龍之介の文章の朗読をいろいろ聞いたのでその感想メモです。 ちなみにこちらの朗読プレイリストから視聴しています。 youtube.com 大きな鼻を持つ男が劣等感に苦しむ「鼻」 悪…

大阪を舞台に営まれる男女の愛と葛藤―田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』

あらすじ・概要 車いすで暮らすジョゼは、同棲し自分を世話する恒夫を「管理人」と呼ぶ。奔放でわがままで、でもどこか憶病なジョゼは恒夫とさまざまなところへ行く。ふたりの微妙な関係はどうなるのか……。表題作ほか、大阪の男女の営みを描く短編集。

倫理のない描写で送る女だらけのソープドラマ―池田理代子『おにいさまへ…』

あらすじ・概要 主人公、奈々子は青蘭学園高等部に入学した。そこにはソロリティという社交グループがあり、美しさや家柄を兼ね備えた子女たちが所属していた。奈々子は家柄も見た目もそこそこなのにソロリティに選ばれてしまう。奈々子は周囲の嫉妬にさらさ…

団地という場所でたくましく育っていく子どもたち―松田奈緒子『スラム団地』

あらすじ・概要 幼少期を団地で過ごした著者。そこは、訳ありの子どもたちや大人たちが暮らす場所だった。自らも借金を抱えた父親と付き合いつつ、トラブルや悩みを抱えていてもたくましく生きていく団地の人々を描くコミックエッセイ。

東京のどこかで貧乏暮らしの青年が日常を生きる―前川つかさ『なにもないシアワセ 大東京ビンボー生活マニュアル』

あらすじ・概要 東京のどこかで、定職につかずぶらぶら貧乏生活をしているコースケ。たまに大家の手伝いをしたり、部屋に彼女がやってきたり、隣の学生と交流したり……。昭和後期の日常を、丁寧な筆致で描く連作短編。

高知の不思議なマンションはどのようにして誕生したのか―古庄弘枝『沢田マンション物語』

あらすじ・概要 高知にある奇妙なマンション、沢田マンション。それは、専門的に建築を学んだことのない夫婦が、増築を繰り返して建てたマンションだった。沢田マンションの構造の紹介から、夫婦の半生、沢田マンション誕生の秘密を紹介。不思議なマンション…

日本精神を鼓舞する作風だった画家は、戦後に身の置き所がなくなる―カズオ・イシグロ『浮世の画家』

あらすじ・概要 戦中、日本精神を鼓舞する作風で評価を得た画家の小野。しかし戦後の社会では、小野は息苦しい生活をしていた。娘の縁談は破綻になり、かつての弟子たちや娘婿からは冷たくされる。小野は、かつての自分を回想しながら、今生きている日本で身…

やくざより暴力的な刑事が抗争を止めるために事件を追う―『孤狼の血』(実写映画版)

あらすじ・概要 若い刑事の日岡は、暴力団を相手とする部署へ配属される。そこにいたのは、暴力団を操るためなら脅しも暴力も使う男、大上だった。彼は大上と失踪した金融会社社員について調べることになる。日岡は大上に反発しつつも、その驚異的な支配力に…

製鉄の一族に生きた祖母・母・私の神話的戦後年代記―桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』

あらすじ・概要 山の人たちに置き去りにされ、血のつながらない夫婦に育てられた万葉は、そこの大奥様の要請で赤朽葉家に嫁ぐことになった。千里眼を持つ万葉は、そこでさまざまな未来の幻を見てしまい……千里眼の祖母、漫画家の母、そして物語を持たない私の…

いろんな意味で現代では描けない作品―ジョージ秋山『銭ゲバ』

あらすじ・概要 貧しさゆえに病気になった母親を失った蒲郡風太郎は、「金さえあれば何でもできる」と金に強い執着を持つようになる。お金ほしさに殺人などの犯罪行為も厭わず、ついに大企業の社長になる。しかし風太郎の周りに不審な死が多いことに気付く者…

人生の絶望と孤独とそれでも存在する救い―『連続テレビ小説 おちょやん』

あらすじ・概要 実の父親に奉公に出され、道頓堀の芝居茶屋にやってきた竹井千代は、そこで見た芝居に心を打たれて役者を目指す。女性ばかりの一座で下働きをしたり、映画に出演したりの過程を経て道頓堀に戻り、そこで鶴亀家庭劇という喜劇一座に所属する。…

生理用品の歴史から女性解放の歴史がわかる―田中ひかる『生理用品の社会史』

あらすじ・概要 女性に月一回訪れる月経。その不快感を減らしてきたのが生理用品だ。戦前までの女性たちの月経対策や、日本初の生理用ナプキンアンネナプキンの誕生、布ナプキンを巡るイデオロギーと効果まで、日本の生理用品の歴史を追いながらジェンダーに…

デマや不穏投書から見る銃後の人々―川島高峰『流言・投書の太平洋戦争』

今日の更新は、川島高峰『流言・投書の太平洋戦争』です。 あらすじ・概要 民衆を苦しめた太平洋戦争。戦地に行った兵隊を支える「銃後」の中で人々は何を考え、どう行動したのか。当時の流言・投書を『特高月報』や人々の日記から抜粋し、開戦から終戦まで…

山岳ベースで犯された仲間殺しの罪―永田洋子『十六の墓標(下)―炎と死の青春』

今日の更新は、永田洋子『十六の墓標―炎と死の青春』です。 前巻の感想はこちら。 honkuimusi.hatenablog.com あらすじ・書籍概要 山岳ベースに移り、連合赤軍を結成した永田洋子ら。閉鎖的な環境の中で、総括・自己批判は暴力的な意味合いを強めていく。そ…

シベリア抑留から帰ってきた父親の戦後個人史―小熊英二『生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後』

今日の更新は、小熊英二『生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後』です。 あらすじ・書籍概要 北海道の佐呂間に生まれた少年謙二は、1944年に出征する。その先でシベリアへと連れていかれ、抑留生活が始まった。著者が自身の父から人生を聞き取り、補…

謎のアメリカ軍将校は、伝説の結婚詐欺師『クヒオ大佐』感想

Amazonプライムで見ました。 あらすじ アメリカ軍の将校クヒオ大佐と付き合う女性たち。しかし彼は結婚詐欺師だった。瓦解しそうな重ねた嘘は、どこに行きつくのか。そして女性たちは真実を知ったときどうするのか……。

知の巨人が少年時代に出会った先生たちの言葉 佐藤優『先生と私』感想

親からの借り物。 うちはわりとリベラルというか、どちらかというと左寄りの家だと思うんだけど、佐藤優の本は飛び交っています。 あらすじ 技師と専業主婦の間に生まれた男の子、佐藤優。彼は教育熱心な両親に後押しされ、地元の塾に通い始めた。そこには、…

ソビエト・ロシアの収容所で生きた日本人たちの生活 辺見じゅん『収容所から来た遺書』感想

収容所と書いて「ラーゲリ」と読みます。 あらすじ 第二次大戦後、「戦犯」としてソビエト・ロシアの収容所(ラーゲリ)に収容された軍人の男性たち。日本に帰る日を夢見て、貧しい食事や厳しい労働に耐えていた。そんな中、日本人の中心的人物が病気で臥せ…

シリーズ化によって作品の穴が見えてきてしまった 柳広司『パラダイス・ロスト』感想

カドカワのセールで買った作品はこれで最後です。 あらすじ 第二次世界大戦中、スパイ組織として活躍していた「D機関」。そこに所属するスパイたちは、各国に潜入し、さまざまな情報を集めていた。「諜報」を描いた連作短編スパイサスペンス。

戦時中をスパイたちが駆けていく 柳広司『ダブル・ジョーカー』感想

セールで買ったもの。おまけ掌編が入ってないとかケチだな……! あらすじ 軍属でありながら独自の方法で諜報活動を行う「D機関」。彼らは戦時中の日本で暗躍する。太平洋戦争開始直前、陰謀渦巻く世界で彼らが見たものとは……。スパイたちの活躍を描く連作短編…

出口のない世界で抗おうとする女の子 七木香枝『爪先に、結んだリボンをひっかける』感想

インディーズのものも大丈夫そうかなと思ったら紹介するけど「恥ずかしいから載せないで」というのがあればTwitterのDMからお知らせください。 KDP、要はkindle自費出版です。 あらすじ 大正時代に似て、そうでない世界。女学校にいた珠紀は友人と一緒にさる…

戦後を家事労働にかけた女中の半生 吉村きよ『女中奉公ひと筋に生きて』感想

とあるブログでおすすめされて気になった本です。 あらすじ 貧しい家の暮らしから奉公に出され、女中となった筆者。結婚した相手には駆け落ちされ、一人で子どもを養わなくてはならなくなった。生きるために女中奉公をし続けた女性の自伝。

戦争を生き延びたある女性の「普通」な毎日 こうの史代『この世界の片隅に』前後編感想

映画が面白かったので原作も読むことにしました。 表紙の画材は水彩かなあ。 あらすじ 広島から呉へと嫁いだすず。夫とその家族とおだやかに暮らすが、その端々に戦争の影は迫っていた。やがて呉への空襲が始まり、一家は毎日のように防空壕に潜る。そして、…

人がえげつない理由で死んでいくのに下世話な興味を持つ 京極夏彦『姑獲鳥の夏 下』感想

ちょっと時間が開いてしまったけど下巻を読んでいました。前巻の感想はこちら。 honkuimusi.hatenablog.com あらすじ 20か月以上孕んでいる女性、消えた赤ん坊、失踪した男……。謎が謎が呼ぶ館で、京極堂は謎解きをする。あらゆる因縁が明かされ、衝撃の事…