ブックワームのひとりごと

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【熱中することを描く、直木賞受賞作】森絵都『風に舞いあがるビニールシート』感想

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風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

 

あらすじ・概要

パティシエのお菓子に惚れ込んでいる人、水商売で働いてでも保護犬活動にのめり込む人、仏像に強い執着を持つ人。人には理解されないものに、夢中になる人たちがいる。ひとつひとつは独立した短編だが、共通して何かが好きという感情に狂わされた人々を描く短編集。

 

夢中になることの魅力とアンバランスさ

面白い短編が多く、すべての作品にこまごまと感想を書きたくなる本でした。

 

最初の作品「器を探して」はわがままな女パティシエに振り回される女性の話。パティシエの命令で器を探しに行きます。

愚痴で終わるのかと思いきや、終盤の展開にはぞっとしました。でもこの人はこの人で幸せなのかもしれません。女から女への巨大感情が恐ろしかったです。

 

仏像の修復をテーマにした「鐘の音」も面白かったです。修復すべき仏像に強い執着を覚える青年。彼は妄信的に仏像を愛し、自分と仏像に強い結びつきがあると錯覚します。

しかしある思わぬできごとが、彼の価値観を変えます。ある意味あっけないですが、執着の終わりというのはこんなものなのかもしれません。

 

好きなもの、夢中になるものがある。しかしそれは他人に理解はされないもので、はたから見ると狂っているように見えるかもしれない。アンバランスで、だからこそ恐ろしくも愛しい物語でした。