あらすじ・概要
紛争地帯の人々を支援するNGOで働く著者は、20代にしてイラクの紛争地域に行き、現地チームのリーダーとなる。現地スタッフとのコミュニケーションに悩み、政治のごたごたに巻き込まれ、戦争や治安悪化により自らの命もあやうくなる。
紛争地の支援の甘くない事実と、それでも助けたいという気持ち
若者向けとは思えないほどの重たい内容でした。NPOのなんとなくかっこいい雰囲気を打ち砕く作品です。
20代の若い女性が戦地におもむき、そこでリーダーとして振る舞わなければならなかったのです。心労がすごかったでしょう。
なおかつ、家父長制のクルド人社会では、家長として振る舞う方が信頼を得られます。著者は団体を家族のように扱うことでリーダーとしての立場を勝ち取ります。その姿がすさまじかったです。
また、ただ困っている人を助けることに全てをかけられるわけではありません。著者は国や団体の政治的駆け引きにも巻き込まれます。本当に大変そうです。
クルド人たちはずるいところやいい加減なところもあり、決して気持ちよく助けさせてくれるような人々ではありません。
それでも国の方針や戦争に翻弄され、信頼できるものを失った彼ら彼女らを見ると悲しい気持ちになります。
長引く戦争で国家に対する信頼を失った人々に、国家を信頼して倫理的に振る舞えと言っても無理があるでしょう。
日本も問題は山積みですが、少なくとも明日自分や家族が殺されるかもしれないという不安はありません。
岩波新書があまり自伝やエッセイを扱わないゆえに、岩波ジュニア新書がそのジャンルを取り扱っているところがありますね。