今日の更新は、小熊英二『生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後』です。
あらすじ・書籍概要
北海道の佐呂間に生まれた少年謙二は、1944年に出征する。その先でシベリアへと連れていかれ、抑留生活が始まった。著者が自身の父から人生を聞き取り、補足説明とともにまとめた個人史本。
父親がクールに語る、個人から見た日本現代史
何よりも良かったのが謙二のしっかりとした語り口ですね。
著者の父、謙二自身は自分が頭がいいと思っておらず、実際に難しい政治の話はわからなかったようです。半面、とてもクールで感情に流されず、懐古を交えず淡々と自分の生きた時代をとらえています。
高齢者が昔の話をするときにありがちな、自慢話や感傷的な物言いがなく、だからこそ孫世代にあたる私も淡々と読めました。
聞き手である著者の補足も的確で読みやすかったです。個人の歴史だけでは語れないところをデータや記録でカバーしてくれました。
謙二の話を読んで、当たり前と言えば当たり前なんですが、「昔の人も苦労していたんだな……」と思いました。
まず社会保障がしっかりしていないので、病気をするとすぐ困窮してしまいます。出征する前は謙二の家族に結核がはやり、戦後に謙二自身も結核にかかってしまいます。当時には特効薬がなかったので、この病気には非常に苦労しています。
また、年金もちゃんと整備されていないので、老いた親は子どもが養わなければなりません。年金のシステムもごく最近の話なんですねえ。
今ある社会制度が最初からあったわけではないと知ってはいましたが、ない状態というものが実際どういうものか、どのように人生に影響するのか知らなかったです。その部分は非常に参考になりました。
歴史について知るときどうしても社会というくくりで大雑把にとらえてしまいがちで、個々の人々がどう思っていたか、というのを知る機会は少ないです。その点で、淡々と「実感」を語ってくれるこの本はありがたかったです。
親世代祖父母世代の名もなき人々の言葉を整理して残しておくことは、将来の子どもたちにとっても有益なことなのではないでしょうか。
まとめ
新書としてはぶ厚かったけれどすごく面白かったです! 祖父母世代の生きた時代を知りたい人には参考になると思います。
終戦記念日も近くてタイムリーですしね。