今日の更新は、柞刈湯葉『重力アルケミック』です。
作者名は「いすかりゆば」と読みます。
あらすじ・書籍概要
重力を司る「重素」の採掘によって膨張を続ける地球。「遠くに行きたい」という動機から、東京の大学に進学した湯川は、そこでぐだぐだな学生生活を送る。だが、一冊の本をきっかけに、彼は重素を使わない「飛行機」の政策に着手する。
膨張するもしもの世界を真面目に考えるSF
まず序盤は理系大学生のひたすらぐだぐだな日常が描かれているので、この作品の目的がわからず戸惑いました。最後まで読んでみると「このぐだぐだ感が書きたかったんだな」とはわかるんですが、そこに至るまでは読むのが大変でしたね。
やっぱりストーリーにおける目標は早めに提示してほしい。
ちょっと戸惑うところもありますが、世界観そのものは面白いです。
重力を発生させる物質「重素」がエネルギー源として使われている世界。その採取によって地球が膨張を続け、東京23区の行き来にすらバスで1時間かかる……。無駄にスケールが大きい距離感と、それを当たり前として生きている人間の思考回路が面白いです。
日本の国土が広すぎてアンテナがなかなか立てられず、長距離通信は衛星で行われおり、その帯域も企業同士の奪い合いになって一般市民になかなか回ってこない。膨張によって南下した四国に独立運動が起こっている。「もし世界が膨張したら」というIFストーリーを細かく詰めていくところは真面目で楽しいです。
後半になってくると、主人公が飛行機(重素を使わない空飛ぶ乗り物)の作成にチャレンジします。ようやく話が動き出すところなので、この部分はもっと尺をとってもよかった気がします。
最後の別れのシーンで、主人公が同期の才女「宮村さん」に向けた感情にはちょっとときめきました。私は信頼と尊敬が好きなんですよ。
まとめ
構成にちょっと難がある気がするんですが、最後まで読んでみたら結構楽しかったです。あきらめなくてよかった。
主人公にはどんどん遠くへ行ってほしいですね。
柞刈湯葉の本の感想はこちら。