今日の更新は、米澤穂信『いまさら翼といわれても』です。
あらすじ・概要
合唱祭に出る千反田えるがいなくなった。しかも、彼女はソロパートを歌うという。伊原摩耶花からかかってきた電話によって、折木奉太郎はえるの行方を探す推理を始める。奉太郎がたどり着いた場所は……。表題作ほか、古典部の小さな謎を描く短編集。
未来に相対する古典部メンバーたち
古典部の面々が「未来」に相対する話でした。みんな将来を、やりたいことを意識せざるをえない状況になっています。1巻のころを思うと、遠くまで来てしまった気分になりました。
奉太郎が感じる通り、時計の針が進みつつあるのですね。その先にあるのは卒業であり、キャラクターたちの別れなのでしょう。それを思うと一抹の寂しさがあります。
この巻で個人的に好きな話は「長い休日」。奉太郎が「やらなくていいことは、やらない」というモットーを得るきっかけになった過去をえるに語る回です。
そのときはまだ「怠け者」ではなく、普通の小学生だった奉太郎は、遠くに引っ越して通学に時間のかかるクラスメイトの代わりに、美化委員の仕事を肩代わりしていました。それが実は……。ショックを受けた奉太郎は、何事にも積極的ではなくなります。
過去奉太郎に、彼の姉はこう声をかけます。
――あんたはこれから、長い休日に入るのね。そうするといい。休みなさい。大丈夫。あんたが、休んでいるうちに心の底から変わってしまわなければ……。
(P277)
――きっと誰かが、あんたの休日を終わらせるはずだから。
(P279)
奉太郎の長い休日を終わらせたのは、もちろんえるでしょう。えると出会って、奉太郎はもう一度優しい男の子に戻ろうとしています。その事実が運命的でいいのですよね。
自分の足で歩き始めた奉太郎は、1巻のときより少し大人です。成長を思って感慨深い気持ちになりました。
『いまさら翼といわれても』まとめ
登場人物たちの成長がうれしくて、ちょっと寂しい巻でした。終わりが近づいている気がしますが、できればその結末がゆっくり来てほしいと願ってしまいます。
次の巻も楽しみです。