2010年代SF傑作選が出るんだ、俺たちも2010年代ライトノベル短編傑作選やろうぜ。#俺たちの2010年代ライトノベル短編傑作選
— 羽海野 渉 (@WataruUmino) January 23, 2020
というツイートを見かけたので、出遅れた感がありますが記事を書きました。
ただライトノベルだけではいまいち数が集まらなかったので、ライト文芸を混ぜております。
それではいってみよう!
- 策謀渦巻く連作短編『給食争奪戦』
- 駅に飲み込まれた日本で起こる事件『横浜駅SF 全国版』
- シリアスな本編に対してギャグの切れ味がいい『エスケヱプ・スピヰド/異譚集』
- ほのぼのブラックSF童話 『人類は衰退しました』
- スマートフォンやbotなどのテクノロジーをめぐる青春譚『青春離婚』
- 高校野球をテーマにしたシリーズ『雲は湧き、光あふれて』
- 古書店を舞台にしたミステリ『ビブリア古書堂の事件手帖』
- 絵と執着をテーマにしたメシテロ本『極彩色の食卓』
- 死神と出会った人々の悲喜こもごも『ベイビー、グッドモーニング』
策謀渦巻く連作短編『給食争奪戦』
バレンタイン、給食のケーキをいじめっ子から奪うため、主人公の陰謀が始まる……。後ろ暗い子に届く謎の手紙、万引きグループが誰かを助ける話など、小学校を舞台にした連作短編。
何より話の流れが面白いです。複雑なプロットを立てているのにきちんと内容が理解できるところが上手い。
そして決していい子ばかりではない小学生たちが、事件を乗り越えることで一歩前に踏み出していくところが心を打ちます。
駅に飲み込まれた日本で起こる事件『横浜駅SF 全国版』
横浜駅が日本の国土を覆った未来。関門海峡を挟んで横浜駅から住居を守るJR九州、子ども型ロボットを放って横浜駅を調査するJR北海道、そしてエキナカに暮らす人々を描いた短編集。
さまざまな視点から書かれた短編集なので、本編よりいろいろな考え方、人々の生活が見れて面白かったです。
男も女も性格に一癖あって、掛け合いに読んでいてにやっとできます。この人の書くキャラ好きだなあ。
シリアスな本編に対してギャグの切れ味がいい『エスケヱプ・スピヰド/異譚集』
九曜が目覚める前の鬼虫たちによる前日譚、廃校で一夜を明かすことになった九曜と叶葉のホラー回、おふざけ学パロなど、短編をまとめたボーナストラック的一冊。
本編がシリアス多めだったので、ギャグに振り切れている話は読んでいて新鮮でした。ギャグも書ける人なんですね。
本編では出番の少ない楓・庵・柊がたくさん出てきてくれるのもありがたかったです。やっぱりこの三人はいとおしいです。
ほのぼのブラックSF童話 『人類は衰退しました』
人類が衰退し、「妖精さん」という新人類が繁栄している未来。妖精さんとの利害を調節する仕事をしている主人公が修羅場を潜り抜けたり、なぜか人間たちの面倒を見たりする話。連作短編の巻と長編の巻があります。
ネットスラングやパロディが織り込まれたポップな文体とは裏腹に、ハードなSF展開をする不思議なシリーズです。文体は人を選びますが、1巻が大丈夫なら楽しめるはず。
徐々にたくましくなっていく「わたし」の成長も楽しいです。
スマートフォンやbotなどのテクノロジーをめぐる青春譚『青春離婚』
同じ苗字を持つゆえに、「夫婦」とからかわれる二人。アプリ開発をきっかけに、彼らの距離は縮まる。表題作『青春離婚』などを含む、スマートフォンと恋愛を題材にした青春連作短編集。
ちょっと前の小説とはいえ、流行しているテクノロジーを反映させた小説というのは新鮮でした。多くの青春小説では、その辺のテクノロジーのことはぼかしてしまいますからね。
なかなかそう上手くいくことはないだろうとは思うのですが、日常の中にちょっとくらいのファンタジーを期待してもいい、そう思える作品集でした。
高校野球をテーマにしたシリーズ『雲は湧き、光あふれて』
高校野球をテーマにした短編集。最初はばらばらの学校だったのが、途中からひとつの学校を舞台にしたシリーズになります。
スポーツをやる若者たちの繊細な心理描写に心がきりきりします。幸せなシーンばかりではないですが、それでも一瞬の喜びのために努力を続けていくのでしょうね。
葛藤や苦悩があっただけ、キャラクターたちが最後に手に入れたものが美しく見えました。
古書店を舞台にしたミステリ『ビブリア古書堂の事件手帖』
本が読めない体質の五浦は、栞子の経営する古書店ビブリア古書堂で働くようになる。本の知識にあふれ、推理力のある栞子のもとへは、さまざまな「本に関するちょっとした事件」が持ち込まれる……。これも長編の巻と連作短編の巻があります。
古書知識と謎解きがうまく組み合わさったストーリーは、さくさく読めて爽快感がありました。
ドロドロした感情を扱いつつも、栞子も五浦も、基本的に説教めいたことは言わずに、静かに醜い感情を扱っているところがよかったです。
絵と執着をテーマにしたメシテロ本『極彩色の食卓』
美大を休学して女性の家を転々としていた青年、燕(つばめ)は、半分引退したような女流画家律子に拾われる。律子は掃除もできなければ炊事もできず、まったく生活力がない。燕は律子の弟子から送られてくる食材を駆使して料理を作るのだった。
老いた女流画家と休学中の美大生の、居候以上恋愛未満の奇妙な関係。料理を作りながら穏やかに暮らしているようで、お互いに執着を持ち始めていきます。
それでいて、心に苦しみを抱えたふたりは、少しずつ救われていきます。燕と律子が、食事をともにするうちにその「色」を取り戻していくストーリーがもう本当に最高。
死神と出会った人々の悲喜こもごも『ベイビー、グッドモーニング』
ユニクロの服を着た死神の少女。リサイクルのために彼女は魂のきれいなところを集めめる。病床の少年、小説家、元クラウンなど、ゆるくかかわりを持った連作短編。
短編同士の構成や、そこに描かれる心理描写が魅力的で、ありきたりな設定だということはあまり気にならなかったです。やっぱり書き方しだいですね。
特別な設定はないけれど、読むと面白い作品です。王道をきっちり書きこなしたところが好き。
以上です。気になる本があれば読んでみてください。