ブックワームのひとりごと

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『アンナチュラル』感想と、私は中堂系を絶対に許さない話

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今日の更新は、『アンナチュラル』です。

 

あらすじ・概要

あらゆる機関から独立を保ち、独自に死体解剖を行い死の原因を突き止めるUDIラボ。そこで法医学者として働く三澄ミコト(みすみ・みこと)は、優秀だが傍若無人な同僚中堂系(なかどう・けい)に振り回されている。UDIラボの面々は、次々運び込まれてくる「不条理な死体」の謎を暴き、不条理から何かを未来につなげていく。

 

 

ミステリだけど大広間に人を集めて謎を解いたりしない

この作品の面白いところは、「ミステリなのに謎解きがクライマックスではない」というところなんですよね。よくあるミステリでは謎解きが一番の山場で、崖の上で犯人と対峙したり、大広間にみんなを集めて盛大に謎を解いて見せたりします。『アンナチュラル』はそういうことは基本しません。

では何がクライマックスかというと、人の命を助けることだったり、間違いを正すことだったり、あるいは誤解を解くことだったり。「謎を解いて、何をするか」がクライマックスになっています。

私はミステリに苦手意識があるんですが、そのひとつに「謎を解いたところで事件が解決するわけじゃないからなあ……」と思っているというのがあります。実際殺人事件が起こって、犯人が逮捕されて、でもそれだけで解決するものってほんのわずかじゃないですか。それなのにミステリって犯人逮捕をハッピーエンドみたいに扱ってしまう作品結構多くないですか?

『アンナチュラル』は犯人が捕まった、その先にあるものを提示してくれるところが好きです。

 

クライマックスではないので謎解きは変に引き延ばさず、さくさく進行します。普通のドラマだと引き延ばしてしまいそうな見せ場のシーンが数秒で終わることもあります。なんて贅沢なんだ……。

ラスト2話を除いて連作短編形式になっているところも、非常に見やすかったです。次の週に謎を持ち越さないのはストレスがなくて楽です。まあそれ以外の余韻はすごいけど。

 

主題としては法の倫理と論理を重んじる三澄と、不愛想に見えて結構感情的な価値観の持ち主の中堂が対立をしながらも協力していくストーリー。

これは「法VS被害者感情」の対立の擬人化のようでもあり、寓話的にも見えました。

 

と、ここまでが作品の感想。この下からはネタバレなので、感想だけ読みたい方はブラウザバックしてください。

 

私は自他境界ガバガバ感情的おにいさんを許さない

第五話「死の報復」にて事実婚の妻の解剖を依頼した鈴木。鈴木は妻の両親に無許可で解剖を依頼したことから、一旦遺体は遺族に返還されます。しかし中堂は遺体の肺を返却せず、三澄とともに独自の調査を始めます。

その死が殺人事件の可能性が高いとわかった中堂は、鈴木にその調査結果を告げ、犯人の元へ走り去る彼を引き留めなかった。鈴木は、妻の葬儀会場で犯人を刺し、殺人未遂を起こしてしまいます。

 

自分が殺人犯に会ったら復讐してやりたいからって、他人もそうにちがいない、そうしても後悔がないだろうと思うのは、自他の境界線がガバガバすぎるでしょうが!!!

中堂は、明らかに鈴木に感情移入しすぎています。

鈴木にはいろいろな未来がありました。妻のことを忘れられず、廃人のように暮らしていくのかもしれないし、あるいは――少しずつ妻のことを建設的な意味で忘れ、日常に帰っていったかもしれない。結婚を反対していた妻の両親と和解して、悲しみを共有できたかもしれない。

中堂は、その未来をつぶし、衝動的に「犯罪者」としての人生を選んだ鈴木を引き留めなかった。

私は中堂が許せないですよ……。鈴木(夫)が凶行に及んだことによって、どれだけの人間が傷つき、トラウマを抱いたか……。そして、犯罪者としての未来を生きるのは中堂ではなく鈴木です。

そりゃ中堂はああいう人間だから、犯罪者のレッテルを貼られたまま生きても平気かもしれませんが、鈴木はどうなんですか? 中堂は鈴木のことをそんなに深く知ってるんですか? 鈴木はたぶん中堂より平凡で優しい常識のある人間ですよ。

 

補足しておくと、『アンナチュラル』は中堂の思想を肯定してはおらず、むしろ作品を通して否定する立場にあります。三澄は5話のラストで中堂のやったことに対して激怒しています。また、「殺した」という自覚を持った人間の償いを描く7話など、ストーリーの上でも否定しています。

 

ただ、普段はあまり人の感想に言及しないことにしているんですが……中堂という男を単純に「死んだ恋人を一途に思うけなげな男」と認識し、涙を流すっていうのは、何だか怖い気がするんですね。かわいそうなだけの男は誰かを殺そうと走っていく男を放置したりしません。

 

中堂が殺人幇助をした男を殺しかけるシーンでも、「何で鈴木が逮捕されて中堂が逮捕されないんだよ!!」と思いましたよ。

 

他にもツッコミどころはあるんだけれど、同意できる部分もできない部分も私自身の倫理観を揺さぶる内容であり、そういう意味で見てよかった作品です。

その他の言いたいことは『MIU404』対比で考えた方がいいと思うので、感想記事に書いておきます。

 

おわりに:『アンナチュラル』が好きな人におすすめの漫画

最後に一冊漫画を紹介して終わります。

今田たま『家族がいなくなった日 ある犯罪被害者家族の記録』です。

家族がいなくなった日 ある犯罪被害者家族の記録

家族がいなくなった日 ある犯罪被害者家族の記録

  • 作者:今田 たま
  • 発売日: 2015/11/16
  • メディア: 単行本
 

honkuimusi.hatenablog.com

 ある日突然父親を殺された著者が、その心境や裁判の流れなどを描いたコミックエッセイです。

これを読むと「不条理な死」への解像度が上がります。