あらすじ・概要
ダニエル・ブレイクは大工だったが、心臓病によって医者から働くことを止められた。しかしダニエルは役所からは「就労可能」と見なされ、支給金目当てにしたくもない就職活動をするはめになる。そんな折に出会ったシングルマザー、ケイティとともに、どうにか貧困から抜け出そうとあがくのだが……。
助け合うだけではまだ足りない、セーフティネットから落ちた人の話
AmazonPrimeビデオから視聴。
ダニエルがケイティと出会ったとき、「貧困の中の人間同士が助け合ってどうにかなる話なのかな」と思ったんですが、そうは問屋は下ろさなかったです……。これは社会の理不尽に直面し、摩耗し、まともに戦うことすらできなかった人の話です。
確かにケイティとダニエルは困難の中で心を通わせます。ダニエルはケイティの子どもたちの面倒を見てケイティを支えますし、ケイティは高齢で現代的知識がないケイティをサポートします。しかしそれでは足らない。この作品における行政があまりにも杓子行儀で、セーフティネットから零れ落ちた人に対して冷淡だからです。
公務員が身内にいる身からすると、福祉の前線で働いている人に悪気があるわけじゃないと言いたいんですが、セーフティネットから零れ落ちた人を目の前にしてシステムを変えないことはやっぱり責任があります。
作品には理不尽への怒りが満ちていますが、話の運び方自体は淡々としています。ダニエルが怒りをあらわにするシーンや、フードバンクで泣くケイティのシーンでさえ、演出自体は音楽も動画の切り取り方も静かでした。
でもこのクールさがこれはこれでつらいんですよね。自分が傍観者になった気分で。お前はこれを見て何も思わないのかと言われてる気分になりました。つらい。
これまでの感想だけだとケイティとダニエルが非の打ち所がない善人のように思えるかもしれませんが、ダニエルは近所の人にキレる老人だし、ケイティはちょっと考えが短絡的なときもあります。でもそういう完全な善人を描こうとしないところが、この作品の善意だと思います。貧しい人=いい人だったら、いい人じゃない貧しい人は助けなくてよくなってしまいます。
貧困や福祉に興味がある人にはおすすめの映画でした。