ブックワームのひとりごと

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死体の一人称によって語られる、幼き殺人者のサスペンス―乙一『夏と花火と私の死体』

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夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

 

あらすじ・概要

9歳だった「わたし」は友達に殺された。友達とその兄は、わたしの死を隠蔽するため死体を隠そうとする。死体を一人称とした証拠隠滅サスペンスが始まる……表題作ほか、とある家の女中となった女性が見た、奇妙で恐ろしい夫婦の姿を描く「優子」を収録。

 

 

小説でしか描けないサスペンス

「普段あまり本を読まない人間におすすめの小説はある?」と聞かれると、私は乙一の作品を進めることが多いです。短くて文章が読みやすいのもありますが、何より「小説でしかできないことをやっている」という理由が大きいです。

 

この「夏と花火と私の死体」もそうです。死体の一人称ということでまず映像化は無理です。本来意思を持たないはずの死体が語り手になることによって、幼い少年少女が死体を隠すという状況の異様さを際立たせています。

登場人物は子どもなので、死体を運ぼうとしても体力もないし失敗もします。何度も死体が見つかりそうになるたびにはらはらしてしまいますが、文章自体は一定して冷たく、静かです。そのミスマッチさが非常に怖い。死体が神様視点をやっているという、そのまがまがしさよ。

悪趣味! と叫びだしたくなるような結末も最高にいい。ホラー描写が平気ならぜひ読んでほしい作品です。

 

同時収録されている「優子」も、読者が予想していた展開を悠々と裏切って「ぎゃー!!」となるオチに持っていきます。女中とその主人という昔風の雰囲気も相まって、薄暗くぞわぞわするような話でした。

 

 久しぶりに読み返しても面白かったです。