あらすじ・概要
宇宙船のトラブルによって無人の惑星に不時着した人々は、イフゲニアという国家を作って生き残りを図った。しかしイフゲニアのあり方に反抗する勢力が現れ、イフゲニアの人々はそのひとりを処刑する。人々が救助されたあと、処刑を実行したラビルが母星に裁かれた罪とは……。
人間の倫理に訴えかけてくるSF
少女漫画みたいな表紙で「ラノベみたいなやつかな?」と思っていたら、ごりごりに「人間の倫理」に切り込んでくる作品でした。
序盤はサバイバルで始まり、そこで生き残るためにやった処刑が、処刑を引き受けた男ラビルの母星ではあってはならない絶対の禁忌でした。人殺しを強く否定する国家の裁きを、イフゲニアにいた人たちは覆そうとします。
SFとしてはあまり科学的な考証はしておらず、雰囲気スペースオペラなんですが、文化による倫理観の対立、平行線をたどる議論は「未来にありそう」と思ってしまいます。
ラビルを守ろうと奔走しても、ラビル自身は無罪を望んでいないわ、裁判でもとりつくしまはないわ、八方ふさがりです。
でも主義主張の違いを無理に和解させようとせず、わかり合えないという事実を丁寧に突き付ける展開はすごかったです。
そうしているうちにラストに驚いてしまいました。普通に囚人になるよりはましだけど、ラビルにとってハッピーエンドだったのかはわからないですね。
一方で、政治性、メッセージがストレートな作品なので、キャラクターの主張やあり方がうっとおしいと思ってしまう部分もあります。
ただそういう方向でしか書けない作品でもあると思うので、それはクオリティがどうこうというより好みの問題ですかね。